はる

若おかみは小学生!のはるのレビュー・感想・評価

若おかみは小学生!(2018年製作の映画)
4.2
公開時はこのヴィジュアルとタイトルでさすがにチェックしていなかったが、当時から評判は聞いていて、いつかは観ようと思っていた。先日、レンタル配信が安くなっていたタイミングで鑑賞。とても配慮の行き届いた作品で、物語はストレートながら丁寧で優しい。そして子どもにはわかるはずもない映像表現で「あの名作」への目配せがあることに気付く。これは『ドクター・スリープ』鑑賞を控えていたタイミングだったので「ああそうか」となる。
主人公のおっこは両親を自動車事故で失い、祖母が経営するこぢんまりとした旅館に引き取られることになる。そこでおっこは「仲間」と出会い、慣れない環境にとまどいながらも成長していくことになる。よくある物語だけれど、アニメーション表現の巧みさも手伝って素晴らしい仕上がりになった。

ではネタバレ。

おっこがシャイニングを得たのは?
もう、おっこの能力のことを「シャイニング」と呼ぶことにするけど笑、やはり彼女がまだ幼いということと、両親を事故で一度に失ってしまったことが大きいと解釈した。
おっこは健気に見えて、実のところ現実を受け入れていない。それは無理も無いことなのだけど、自覚できていない。その無自覚な不安や恐怖がシャイニングとして現れていたのではないか。新しい環境に適応するための防衛本能と言い換えて良いかもしれない。子どものそうした適応能力こそ今作の「シャイニング」なのだと感じた。自分の弱さを知り、乗り越えていくという成長物語。
おっこが喪失を乗り越えていくにつれて仲間たちは徐々に見えなくなっていくことからも、彼らが何を象徴していたのかはわかる。原作とは違うのだろうが。

原作の児童文学は読んでいないが、おっこをはじめとする子どもたちのルックは踏襲されているし、アニメになるとあのクリクリした瞳がより強調されてもいるだろう。やはり「子どもに観てもらいたい」ということなのだろうが、監督を含めた製作サイドの「欲求」がグローリー水領に集約されているようで苦笑いするよりない。ただし原作ではヘビースモーカーという設定らしいので、原作に忠実にやりたいようにやったのだろう。

また春の屋に訪れる家族の父親が何故かメガネ縛りで、タイプも似ている。これはどうしてだろうと気になった。終盤の木瀬家は映画オリジナルのキャラということで、意図されているだろう。そこで気づいたのは、おっこの父親もメガネをかけていたということがある。だから彼ら宿泊客家族の父親の姿におっこは自分の父親を感じていたはずで、その子どもには羨ましさや嫉妬を覚えていた。似ているからなおさらということになる。

おっこが、そういう自分の辛さや喪失感を「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない」という言葉で乗り越えていくのにはいささかの違和感を覚えたが、彼女は春の屋で働くことによって自信を得て、新しい環境にも馴染んでいったのだから、幼いながらも強い気持ちを持っていく決意の表れだと思えば、良かったなとなる。

今作を94分でまとめたのがすごいことだし、繰り返し観るたびに色んな気付きもありそうだ。
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