こないだたまたまイ・チャンドンの「ペパーミントキャンディ」を見て打ちのめされたところでしたが、新作が公開されるだなんて出来過ぎなタイミング。
観に行くしかないです。
それで、またまた打ちのめされてしまいました。
村上春樹の短編「納屋を焼く」の映画化との事で、NHKも共同で制作してて、ショートバージョンのドラマがあったみたいですが、原作小説もドラマ版も未見です。
一言でこういう話でしたと簡単には説明できないし、結局何が起きたのかどういう事だったのか、結末を見ても謎だらけで様々な解釈ができそうです。
原作との違いはわかりませんが、固定化された格差の中で、大学を出て教養もあるのにしがないバイトしかできず、出会いもなく、家庭は複雑で貧しくて、小説家を目指すもののこれと言って書きたい事が見つからない、この先自分がどうなるのか先は見えないし、いろんな要因が絡み合って社会の底辺に押し込められているような鬱屈した青年ジョンスの描写が、韓国の社会状況を色濃く映していて、感情を表に出さず覇気のない顔つきのジョンスのコンプレックスや嫉妬、羨望などがユ・アインの繊細な演技から確かに伝わってきて素晴らしかったです。
ジョンスと謎の金持ち青年ベンはまるで光と影、表と裏みたいな関係ですが、ベンも何不自由ない豊かな暮らしがありフェラーリや高級マンションなど何でも手に入れてるのに、どこか空虚で心に闇がある。
ジョンスも幼馴染のヘミもベンも、みんながこの世の中で生きる目的や意味がわからず、彷徨ってるように見えて、みんながグレイトハンガーのようでした。
持たざるジョンスは、自分では決して手に入れることのできないお金、家、車、華やかな友人、優雅な生活を持ってる上に、大切なヘミや自分には姿を見せなかった猫まで自分から奪っていったベンに対して、羨望や嫉妬の感情を持ちますが、ベンから古いビニールハウスを燃やす秘密の趣味の話を打ち明けられた事で、「汚くて役に立たないビニールハウス」に自分やヘミを重ねて、自分の存在を無価値だと否定し見下されたように感じたのかもしれません。
貧しくて惨めで孤独で、どこにも寄る辺ないジョンスの唯一の光がヘミだったのに、ヘミを失ってしまってジョンスはますます自分の存在意義を見失っていく。
怒りと疑念をベンに向け、静かに憎悪を募らせ破滅へと加速していくジョンスがとても悲しいし、終始不穏な空気が充満し、どこに向かって行くのか(良くないことが起きる予感しかない)スリリングで、心理描写や情景描写、人物描写の的確さがもうほんとに素晴らしかったです。
また今年も韓国映画の傑作に出会えた喜びを噛み締めています。
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2回目: 2019.3.23 出町座
ベン自身も言及しているこの作品に散りばめられたメタファーについて、それらが意味するものをもっと理解したくて出町座で鑑賞。
先日、同じくイ・チャンドン監督の前作である「ポエトリー」を見たのですが、主人公が、詩或いは小説を書きたいけど書けない人、何を書いていいかわからない人というのが共通してるんですよね。
つらい現実を突きつけられ、それまで見ないようにしてた事からも目を背ける事もできずに苦しみながらも向き合うことで、自分の中から書くことが生まれてくる、そんなところも同じだと思いました。
(これは、バーニングのラストシーンがジョンスの書いた創作であるのではないかという解釈です)
村上春樹の原作小説とはあえて真逆のような主人公の描き方にイ・チャンドンのメッセージを感じます。
主人公ジョンスの生活を徹底してリアルに生々しく描き、生きづらさを抱えた現代の若者をここまでしっかりと捉えたその視点や表現はさすがとしか言いようがなくて、その時代ごとの韓国を高い問題意識をもって批判しながらも、人間描写は単純化せずに多層的に深く描き、根底には弱き者への慈しみを感じさせるのが素晴らしいです。
たまたま上映後にイ・チャンドン作品について解説するイベントがあり、イ・ファンミさんと出町座のスタッフの方とのお話がとても興味深くておもしろくて、1時間があっという間でした。
ほんとに参加できて超ラッキーでした。
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