あやこふ

バーニング 劇場版のあやこふのレビュー・感想・評価

バーニング 劇場版(2018年製作の映画)
4.5
無数に散りばめられたキーワードが何を意味するのかはっきりわからないまま、ついついジョンス目線で観てしまったので後半の猫のシーンからのスリル感はたまらなく、「ベン、やっぱり貴方だよね?」と単純に思ってしまったのは監督の手腕か私の読解力のなさか(たぶん両方)。
ただ余韻は半端ない。

もちろんこれは犯人探しのミステリーではなく、ジョンスに容疑をかけられたベンにしても、実際にはただ、何をしているのかわからない金持ちの男(+謎の言動)=怪しい、という偏見だけで、確たる証拠は何もなく、あるのは曖昧な「状況」だけだったのだと気づく。

序盤、ヘミがジョンスにパントマイムを褒められて言うセリフ

「そこにあると思い込むんじゃなくて、ない事を忘れればいいの」

これは散りばめられたキーワードに繋がる。姿は見えないけど確かにそこにいる猫、なかったと言われるけど確かに存在していた井戸、焼かれた様子のないビニールハウス(ベンは想像の中で焼いていた?)、見えないけど、ヘミは美味しそうに蜜柑を食べる(本当に、果汁の滴も感じるほどに絶品のパントマイム)。

ハイライトとなる3人で並んで日没の赤く染まった空を眺め、ヘミが夕陽を浴びて踊るあのシーンは美しく、ぼんやりと鑑賞していた私にも強烈な余韻を残したのだけど、あれはヘミにとって最後の「光」の瞬間だったのだろうな。

1日に一瞬だけ光が差すヘミの部屋も(追記:この部屋が表すのははヘミの人生そのもので、一瞬だけ射す光さえ、太陽の光が直接届くのではなく向かいのビルに反射した光、というのがまた辛い。)その瞬間が終わればあとは闇、美しい夕陽の後に待つのは闇。そしてあのラストが実際に起きているならば、ようやく小説家として創作意欲が湧いたジョンスを待っているのも闇。

結局グレートハンガーにもなりきれないリトルハンガー、ジョンスに溢れた世の中は、確かに闇だ。