odyss

ピータールー マンチェスターの悲劇/ピータールーの虐殺のodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【正攻法すぎる】

ウォータールー(ワーテルロー)の戦いで英国のウェリントン公爵がナポレオンを打ち負かした直後、英国の産業都市マンチェスターで実際に起こった事件を映画化しています。

公爵が多大な年金を受け取れるよう国会で決議がなされる一方、マンチェスターの工場労働者たちは安い賃金に加え、食品の値上げに苦しんでいました。

その直接的な原因となったのが、穀物法という悪法。これは映画では少し言及されているだけですが、穀物の輸入を制限する法律で、国内の穀物価格引き上げを狙った英国地主貴族階級の画策の結果とされています。外国から安い穀物が入って来なくなると困るのは庶民。

ちなみに現在も世界的に「正しい」とされている自由貿易主義は、こうした悪法への反省から生まれたとも言われています。

それはともかく、生活苦を何とかしてもらおうと、著名な演説家を呼んで広場に多数の民衆が集まる。暴動になれば官憲の介入を招くだけだからという理由で武器、或いは武器になりそうなものは携帯厳禁。ところが・・・

特に作品後半、広場に大群衆が集まるところ、そしてその後の惨劇のシーンがこの映画の最大の見どころです。また、庶民の生活を、光の当て方を工夫して描いた前半も絵画的で、それなりの出来。

しかし、この映画の欠点は、善玉悪玉がはっきりしすぎているところ。支配階級でも広場に集まった大群衆への対処の仕方については意見が多少分かれていますが、工場主までが支配階級と意見を同じくして・・・というのは、ちょっとどうかと。

というのは、工場主はたしかに演説会のせいで労働者たちがサボタージュすることに立腹してはいるのですが、仮に労働者の多数が働けなくなれば困るのは工場主。また、歴史的に見ると工場主は穀物法の導入には反対したという事実がある。食品が安価になればそれを口実に賃金を下げることができるからです。つまり、穀物の価格を上げたい地主階級と、賃金=工場運営コストを下げたい産業ブルジョワジー階級とでは利害が対立していたわけです。

ところが、この映画ではどちらも労働者階級を抑圧しており、互いに協力関係にあるものとしてしか描かれていない。

史実としてそれなりの重みをもつ作品ですが、歴史や社会の複雑さをもう少し描くことができないと、大人の鑑賞に堪える映画にはならないのでは、と思いました。
odyss

odyss