ノラネコの呑んで観るシネマ

ピータールー マンチェスターの悲劇/ピータールーの虐殺のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.2
200年前の英国で、選挙権を求める平和な市民集会を、英国騎兵隊と義勇兵が襲撃した「ピータールーの虐殺」の顛末を描く。
明確な主人公を置かない群像劇。
映画はほぼ2時間をかけて、事件に至る人々の動きや社会情勢をじっくり描いてゆく。
ナポレオン戦争には勝ったものの、景気は最悪。
賃金は下がり続け、庶民は食うや食わずの生活で、帰還兵たちにも仕事はない。
ところが議会は、戦争の指揮官に巨額の報奨金を送る乱脈っぷり。
こんなデタラメは許せないと、庶民の間で改革の機運が高まってる。
一方、支配階層や資本家は、自らの利権を守るために、庶民の運動が膨れ上がる前に潰そうと、虎視眈々と狙っている。
マイク・リーは、相当ソビエトの革命時代の映画を意識してるんじゃないかな。
ピータールーの描写は、言わば英国版のオデッサ階段。
集会が二方向から挟撃され、人々が逃げ場を失うことや、乳母車こそ出てこないものの、かわりに帰還兵の青年に託された象徴性もよく似ている。
一枚岩でないのは庶民も支配層も同じだが、労働階級の人々が生き生きと人間的に描かれるのに対して、支配階層の描写は徹底的に醜い。
希望を胸に集会へ向かう庶民と、弾圧する気満々な支配階層の人々のクロスカッティングは、お手本の様な比較のモンタージュ。
しかし200年も前の話が、いまだに説得力を持ってしまうことが本当の悲劇。
今ならどうしても香港のデモが頭に浮かぶ。
香港の選挙制度が、民意を十分反映できないのも本作に通じる。
正直、主人公がいないこともあり、視点がコロコロ変わる序盤中盤は少し長く感じる。
もう少し刈り込めたと思うが、想いの詰まった見応えのある大作だ。