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ビリーブ 未来への大逆転のpicaruのレビュー・感想・評価

ビリーブ 未来への大逆転(2018年製作の映画)
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【彼女の話】

『ビリーブ 未来への大逆転』観ました。

ルース・ベイダー・ギンズバーグ。
85歳で現役の女性最高裁判事。
史上初の男女平等裁判に挑んだ弁護士。

映画は、彼女の物語である。

ハーバードロースクールの入学式が描かれるファーストシーン。
学生500人のうち、女性はたったの9人。
黒いスーツの集団の中、スカートをなびかせ、颯爽と歩くひとりの女性がいた。

ルース・ベイダー・ギンズバーグだ。

背の低い彼女が埋もれなかったのは、女生徒だとチヤホヤされたからではない。
カラフルなワンピースが映えたからでもない。
彼女が、社会にとっての光だったからだ。

気付いたら、高校時代にタイムスリップしていた。
私が通っていた高校は、一学年の中で女子が10%未満という、珍しい公立高校だった。
元々男子校であり、後に男子のみの普通科に加え、男女共学の理数科が設立されたためだ。

女子である私には、数学や理科を好きなだけ学べる機会が与えられていた。
先生方は数少ない女子をとても大事に育ててくださった。
ありがたいことだと思っていた。
だけど、高校生の私には、それがどれだけ恵まれていることなのかはわからなかった。

「100年前、私はここに立つことすらできなかった」

男女平等裁判における法廷で、ルース・ギンズバーグが語った言葉だ。

女性が、学びたいことを学べない時代があった。
女性が、学んだことを活かす仕事に就けない時代があった。

高校3年のある日の数学の授業中。
実力テストの成績上位者が発表された。
理数科なので、数学の上位争いはいつも白熱していた。
1位の発表で、親友の彼女の名前が呼ばれた。
感激した。
なぜなら、高校入学以来、初めて女子が数学で1位を取った瞬間だったから。

私は本人よりも喜んでいたにちがいない。
その日の帰り道、自転車をこぎながら泣いてしまったくらいだ。
彼女は私のライバルであり、憧れだった。
女子の中で2位だった私は、いつも彼女だけを追いかけていたし、教室の席がちょうど彼女の後ろだったので、熱心に数学の問題を解く姿に何度も触れてきた。
立場的にも物理的にも、誰よりも彼女を見てきた。
そんな彼女が、男子が優勢とされてきた数学で1位を取ったのだ。
うれしいにきまっている。
常識を打ち破ってくれた、女子の可能性を示してくれた彼女と親友であることが、誇らしかった。

映画は、彼女の物語である。

ハーバード法科大学院で常にトップの成績だったルース・ギンズバーグは、同じく学生だった夫・マーティンが病気で倒れると、彼の分の講義も受け、単位を取得してしまう。しかも、家には生まれたばかりの娘がいたのだから信じられない。育児と勉強を両立するスーパーウーマンだ。

あれ、どこかで聞いた話だな、と思った。

先日、法律関係の仕事をされている女性と出会った。
法律関係というだけでつい堅そうなイメージを抱いてしまうが、自分の人生を楽しむだけでなく、相手の人生の困難も楽しいネタに変換してくれるような、愉快な方だった。
仕事も育児も趣味も全力で、いったい何人分の人生を生きているのだろう? と思ってしまうほど、眩しい方だった。

1970年代アメリカ、男女平等や女性の権利のために闘い続けたルース・ギンズバーグ。
どこか遠い世界の遠い誰かの話だった。
彼女のおかげで、映画がぐっと身近に感じた。

映画は、彼女の物語である。

朝起きて、学校へ行く。あるいは、仕事へ行く。どこかでご飯を食べる。買い物をする。
一日を過ごすだけで、たくさんの女性と出会う。
もしも、彼女が生き生きとしていたら、ルース・ベイダー・ギンズバーグの血が流れているのかもしれない。

たとえ、自分を見つけられない私のような人間であったとしても、映画を観て彼女に力をもらった後なら、探すことをやめたりはしない。学ぶことをやめたりはしない。自分で自分を誤魔化したりはしない。

物語の主人公であるたくさんの彼女へ。
愛と敬意を込めて。
ありがとう。
picaru

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