ハリウッドの光と影が生み出した…スターとあえて呼ぼう。
もちろん生のパフォーマンスは見たことがないし、晩年の(ちょうど本作品の頃の)「老婆のようだった」という姿も知らない。でも『イースター・パレード』や『ザッツ・エンタテインメント』で見せる姿は本当に素晴らしくて、“天賦の才”とはまさにこのことかと思わされる。一瞬で目が覚めるような歌声。
しかし本作で挿入されるように、その強すぎる光の影には凄まじいまでの酷使があった。薬で眠らせない・痩せさせるなんてとんでもない話である(何の薬だったかは明らかだ)。彼女がすり減らしていったもの・犠牲の大きさは計り知れない。キャリア全盛期から彼女の遅刻癖は重度化していくが、職場に行きたくなくて当然と言える。そして多くの才能ある女性がそうだったように、彼女が求めたのもやはり”1人の女性として“の幸せだった。
「忘れないで」と彼女は言う。最後、オーディエンスが彼女に向けて歌うシーンはやはり涙なしには見られない。声も出せずに泣くしかない人々の心に、「Over The rainbow」はどれだけ光を灯したか。私たちが覚えておくべきは、光の裏に影があったこと、でもその光はかけがえのない素晴らしいものだったことだと思う。合掌。