マクガフィン

ジュディ 虹の彼方にのマクガフィンのレビュー・感想・評価

ジュディ 虹の彼方に(2019年製作の映画)
3.8
幼少期の過去パートで、スパルタによるトラウマが切ないレベルを通り越すことに。覚醒剤で薬漬けされて、業界の構造や華やかさに洗脳されて、体重維持と長時間労働を強いられる、ハリウッドの闇に驚愕する。追い込まれてダイブした少女の心の叫びに、大人は気づかなく、大人と業界に搾取されて、食事や睡眠を奪われた幼少期を過ごせば、それでは、抑圧された欲望は愛を希求するしかないだろう。恐ろしい三大欲求の兼ね合いをサラリと描くことが凄い。適宜に回想シーンを挟むシークエンスが絶妙で、普通の映画は、今にもコップに溜まった水がこぼれ落ちそうな緊張感を描くが、この作品は、何時から落ち始めたのが分からない悲壮が凄く、切っ掛けなんか幾つもあることにリアルを感じる。

晩年のジュディの、借金苦で住居がなく、子供と引き離されて、一発奮起するためのロンドン・コンサートでの顛末をメイン構成に。子供と過ごす為に、借金返済と家を購入する目的で頑張るが、エゴとトラウマと薬物中毒と神経症が纏わり付くことに。

肝心な歌やステージのシーンがない、長めの前ぶりが効果的で、コンサートの開催日が近づくが、歌をまともに歌えるか心配することに。万年のホイットニー・ヒューストンのように才能と喉を消耗したことが脳裏をよぎるが、ステージパフォーマンスは圧巻に。生を消耗するようにも。

しかし、歌しかない人生で、歌っている時だけ救われると思いきや、その歌もプレッシャーになる苦悩で、悲壮が更に相乗することが何とも言えない切なさに。ある意味、情念の開放のような、覚醒した「ジョーカー」の方がまだマシに思えるように。

胡散臭い若い男に振り回されたり、クスリとアル中で自業自得もあるが、次第に憎めないキャラになり、終いに、それでも愛おしい人間に昇華していくシークエンスが良く、ダウナー的に暗く一辺倒になりそうなところを、歌やキャラの愛しさで少し中和するテイストに感心も。

トラブルで解雇されるが、それでもステージに上がる歌手としての業とエゴ。抑圧された欲望とLGBTQの解放を重ねた、ラストステージは圧巻。ケーキを食べることをできない〈愛〉の無い幼少期を過ごし、ケーキ入刀で結婚形式の愛を希求した女性の、終盤の一口のケーキを、たどたどしく口に含む仕草に、ケーキの概念さえおかしくなったような生涯に悲しみが溢れる。