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幸福なラザロのTOTのレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
3.8
‪中世封建社会のような農村から都市の貨幣経済へ。
時代の変化に取り残された者、いまだ搾取をする者、善を見ることなく己の悪を投影してしまう者。
小悪党は残り、奇跡は起きても続かない。
ただひとり変わらぬ主人公ラザロの高潔な純粋さと、彼を導いて見守る狼の眼差しに貫かれる現代の寓話。‬
狼はまるで、宗教も善悪の価値基準も生まれる前、はるか遠い昔からの使者みたい。
‪‬‪天空の城ラピュタのモデルにもなった山間部の風景が美しい。
過酷な労働環境を生きる村人の農作業の様子は古典的かつ牧歌的に輝くが、後半で現代的な都市部で生きざるをえなくなった彼らの生活は希薄になり、輝きを失う。
その中で、ラザロが町に一人佇む姿だけは神秘的に描出される。‬
‪何よりもラザロ役アドリアーノ・タルディオーロの存在感が圧倒的(よく見つけたね!)
浮世離れしているのに生活感があって鷹揚とした体躯と、遠くから映しても目を引く歩き方、媒介のように透明でまっすぐな目。
彼をどう見るかによって自分の善悪や、人生の価値観まで見透かされるようだった。‬
‪聖書の「ラザロの復活」「金持ちのラザロ」も取り込み、センチな風刺とシュールなリリシズムを見せつつ、飛躍するようでそんなに遠くに行かない教訓的物語を真面目に観る気持ちと、タンクレディとラザロの関係に萌える気持ち(もっと掘り下げても良かったのよ…)の間で揺れる胸の内。
‪時代の変化に気づかず搾取された人々の話として『アンダーグラウンド』に近いけど、音楽とドラマはあれほど強くなく。
奇跡やいくつかのシーンの象徴性や上品な戒言っぷりは好み分かれそう。
ちょっと行儀良すぎる。
タンクレディとの関係描写がもう少し多いと物語が破綻して私は好みだったかもしれぬ(まだ言う‬)。
好きなシーンはタバコの葉の茂みで響くラッザーロ〜ラッザーロ〜〜と、熱を出したラザロの額を皆が撫でるとこ。
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