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幸福なラザロのレクのレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
4.1
貧しい生活の中で働き者の純朴なラザロと村人たちは、小作制度の廃止を隠蔽する侯爵夫人に騙され、社会から隔離された生活を強いられていました。
ある日、侯爵夫人の息子タンクレディが狂言誘拐騒ぎを起こし、この事件をきっかけに村人たちは外の世界に出ていく。

このあらすじは監督アリーチェ・ロルバケル自身が"小説より奇"な事実から着想を得たと語っています。
イタリアでは、1964年から1982年という18年もの時間をかけて廃止になったメッザドリアという小作人制度がありました。
メッザ(半分)という言葉からも分かる通り地主に収穫の半分を納めるというものです。
1982年に封建的な小作制度が廃止されても尚、労働環境は改善されず、搾取も隷属状態も改善されない。
それどころか、貧困問題は一層過酷になっている。
農民たちは自由を手に入れたが、特権階級は搾取のターゲットを貧しい外国人たちに変え、更に搾り取ろうとしていました。

これは嘘のようで本当にあった出来事。
容赦のない現実の不条理を描き出すため、アリーチェ監督が選んだ主人公がラザロなのです。
目を見張るほどの善人であり、純粋故に人を疑うことを知らない。
扱き使われる村人のためでも、自己中心的な侯爵夫人の息子のためでも、望みを聞いて回る。
隷属関係にある下僕のようにも、はたまた人々を助ける聖人のようにも映る。
そんなラザロの姿が静かに淡々と、それでいて清く淑やかに慎ましく物語を引っ張っていく。

ちなみに、ラザロという名前はヘブル名ではエルアザル(神はわが助け)という意味があります。
新約聖書を知らなくても楽しめる仕様にはなっていますが、新約聖書を調べるとより一層深くこの物語を知ることが出来ると思います。

小作制度が残す傷跡、現代社会を見据える"聖人"視点で映しながら、貧困層が抱える問題を描いた寓話、いや聖書である。

独特な世界観や空気感、それを押し付けがましくなく、すっと心に染み渡るように優しく、そして心の澱を掬ってくれるように慎ましく現代の"聖人"を作り上げたアリーチェ・ロルバケル監督の手腕を見せつけられました。
過去作を観ると共に、新作を追いかけていこうと思いましたね。
ということで『幸福なラザロ』、なんとも言えない余韻に包まれる素晴らしい映画でした。
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