菩薩

幸福なラザロの菩薩のレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
4.1
悲しいくらいに現代であり歴史である。太古の昔、まだそれらしき脅威もなく縦横無尽に野原を駆けずり回っていたであろう純粋種の狼が、現代の小型化され狭いケージの中で人間に餌を与えられ飼い慣らされている犬を見たら「なんたる事か」と嘆くのかもしれないが、犬にしてみれば今己が置かれた状況こそが幸福なのであり、過酷な環境の中で生き抜かねばならない狼の方がよっぽど不幸に見えるのかもしれない。幸福とは無知である事なのかもしれないが、無知であり続ける事は幸福を遠ざけもするジレンマ。社会に対して牙を剥けば社会は個に対してこれでもかと制裁を課してくるが、社会に魂をも飼いならされる事が幸福であるとは思えないし思いたくも無い。聖なるものは汚され踏みつけられ、無垢なるものは騙され生きる場所すらも与えられないのであれば、現世からの解放こそが幸福であると言えるのだろうか。帝国の礎を築き上げた狼は古の都へと通ずる筈の道に解き放たれる、その先にかつての栄華はおそらく無い。神が人を見捨て、人が神を見限ってから幾星霜、いつまで我々は来るべき裁きに対して怯え続けなければいけないのか。死後の世界で、聖なる愚者はようやく穏やかな眠りにつく。
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