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COLD WAR あの歌、2つの心のncccoのレビュー・感想・評価

COLD WAR あの歌、2つの心(2018年製作の映画)
4.2
うーん、好き。
しっとりと染み渡る心の歌、色香の漂う美しいモノクロームの画面。
故郷ポーランドで出会い、数奇な運命に振り回されながら、それでもふたり添い遂げることを選んだピアニストと歌手のお話。

生涯にただ一人の、離れられない大切な人。
彼と添い遂げるためだけに、ほかの全てを利用し彼に人生を捧げる女と、完全に自分のものにならない女に想いを残しつつも音楽に溺れる男。離れれば身を切られるように切なくて、近づけば求め合いつつも反発し合ってしまう、運命に繋がれた二人。

深い余韻を残す「2つの心」のメロディは、ふたりの心の揺れ動きに沿うようにストーリー中幾度もヴァージョンを変え、繰り返し登場する。あるときは民謡曲として、あるときはフレンチバラードとして。邂逅ののちにバーで歌うしんみりしたピアノソロバージョンがいい。オヨヨイのかすれた響きの、色っぽさ!
苦労の末辿り着いた異国の地で、愛する男のピアノで歌うしあわせはいかほどのものか。

パリの場面が好き。想いが溢れるように路上で抱き合い、今は無きノートルダムが暗闇に浮かぶセーヌクルーズで身を寄せ合う。夏の夜の解放感と恍惚感が身に染みる。
そしてジャズ。唯一モノクロなのに色彩を感じるのがこのシーン。画面から音の粒が色になって溢れてくるようなジャズシーンに束の間の深いカタルシス。

愛することは歓びだけではない、嫉妬も憎しみも哀しみも、一緒についてきてしまう。それでも自分の想いにまっすぐなズーラに深く共鳴してしまった。
彼が、好き。
きっと人生の全てってそんな風にシンプルで、でも叶えようがないほどに、難しい。

10数年に及ぶ愛の歴史をを演じきったヒロイン・ヨアンナクーリグの、時に可憐で時に妖艶な表情がたまらなく魅力的。

全編に漂うポーランド独特のもの哀しさと、ポーランド語の響きにうっとり。静謐画の名手パブリコフスキ監督の本領発揮ともいうべき協会のシークエンスには感無量、1ミリも無駄のないラストシーンに痺れます。
2019年のベストに入る名作。何度でも観たい。
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