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ある女優の不在のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

ある女優の不在(2018年製作の映画)
3.5
「白い風船」「チャドルと生きる」「オフサイド・ガールズ」などで知れるイランのジャファル・パナヒ監督によるロードムービー風の人間ドラマ。
原題「سه رخ 」はペルシャ語で「3つの顔」の意味(ラテン文字Se rokh)。(2018)

"3つの顔"とは、
女優としての“未来”を奪われた少女、
“現在”を生きる有名女優、
イラン革命後演じることを禁じられ隠遁生活を強いられている“過去"の大女優の3人のこと。
過去、現在、未来の3つの時代を象徴的に体現する3人の女優/ 女性を登場させ、芸術の表現の自由、女性の生き方をテーマにした深遠なドラマになっている。

イランの人気女優ベーナーズ・ジャファリ(ベーナズ・ジャファリ本人)のもとに、見知らぬ少女マルズィエ(マルズィエ・レザエイ)から"女優を目指して芸術大学に合格したが、家族の裏切りによって夢を砕かれため"、首にロープを掛けて自殺する動画メッセージが届く。
衝撃を受けたジャファリは、撮影から抜け出し、映画監督ジャファル・パナヒ(ジャファル・パナヒ本人)が運転する車で、細い道を通って少女が住むイラン北西部の村を訪れる。
二人は、真相を探るうち、イラン革命後に演じることを禁じられた往年のスター女優シャールザードがこの村にいることを知る……。

イラン革命後女優のキャリアを絶たれ、村人から村八分にされたまま、村外れの小さな家で暮らすシャールザード(本名コブラ・サイーデ)は、ほんの数秒間のシルエットと後ろ姿のショットだけの登場(加えて、作品に詩を提供)。
演じることは出来なくても、違う分野の絵を描くことでアーティストであり続けるシャールザード。
その“女優の不在”に、自らも映画製作を禁じられている監督の思いが投影され、
ラスト、二人が、曲がりくねった道を通って帰るシーンに未来を託す。

「手紙よ、包みの方は、後で説明するわ」
「一本道の唯一のルールさえ毎日変える。道を変えずにね」
「一緒に。
こういうことは、女性の方が得意だ」

パナヒ監督は、社会の不条理な現実を描いたことでイラン政府による2度の逮捕を経験。2010年には20年間映画製作禁止を命じられたが、その後も作品を発表。
なお、ロケ地は、母親、父親、祖父母が生まれた、首都テヘランから遠く離れた3つの村。
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