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ブラック・クランズマンのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ブラック・クランズマン(2018年製作の映画)
5.0
30年越しの WAKE UP! WAKE UP!

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1979年コロラド州コロラドスプリングス。初の黒人警官として採用されたロン・ストールワース。資料係として白人刑事たちの侮蔑にあっていたが、折良くブラックパンサー党の集会の潜入捜査のチャンスを得る。無事成功するしたロンは、情報部の刑事に出世。勢いたまたま見つけた新聞広告のKKKのメンバー募集に電話をかけ、入団面接まで取り付けてしまう。しかし黒人であるロンがKKKと対面できないため、同僚の白人刑事フリップに協力してもらうことに。電話はロン、対人はフリップが担当して二人一役で演じながら、KKKの潜入捜査を進めていく……。

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まさかの実話。原作気になる。

スパイク・リーの30年来のファンなので、最新作は親を質に入れても見に行く覚悟で楽しみにしてました。
ここ数年「オールド・ボーイ」や「インサイドマン」といったエンタメ映画もちゃんと撮れるって作品が続いてたので、人種差別問題に真っ向から向き合った作品久しぶりだったので尚更。(トランプ大統領が誕生して以降の様々な事件も影響してると思う)

「風と共に去りぬ」に始まり「國民の創生」に繋げて、ハリウッドにおける黒人の描かれ方を通じて人種差別の歴史を振り返ると共に、根深い優性意識を炙り出す。
転じてブラックスプロイテーションの名作「黒いジャガー」「コフィ」「Superfly」を引き合いに出して、誤った黒人イメージの流布の罪も暴いてみせた。てっきりアメリカ社会で黒人観客が一定の市民権を得て、黒人向けに作られた映画だと思ってたのが、この際調べて全然そういうことじゃないのが分かって勉強になった。サントラが変わらず超カッコいいのが救い。

「グリーンブック」と違って、被差別側から人種差別を描いているのに、被害者ヅラしてないのがいい。徹頭徹尾コメディ映画してるのに、白人刑事との安直なバディ映画にもしてないのも良くて、過剰なベタベタも罵り合いもなくふっつーな関係で終わるのが良かった。(ハリウッド映画の「マジカルニグロ」と揶揄される、白人の主人公を助ける気のいい黒人キャラの反転構造にしない)

一方で、解放運動の理と非も描いているように見えた。KKKの入団儀式とブラックパンサーの語り継ぎ会を対比させてるのと同時に、クロスオーバーさせて、それぞれやろうとしてることが裏表の関係、大同小異じゃない?と問いかけてくるような。

スパイク・リーにしてみれば、昨今のポリコレ重視なバディ映画(異人種・異文化が安直に融和しちゃうような)に違和感があって、偽善的とすら見えてるのかも。
ともすれば、現実から目を背けて、さも人種間の緊張も対立も無かったことにされちゃったり、無関係な人たちには解決済の話にされちゃうことに危機感を募らせてるようにも思える。
だから30年ずっと映画で言い続けてる「Wake UP!」を今再び声高に劇中で叫ばせて、あのラストのショッキング映像につなげたんじゃないか、と。

盟友デンゼル・ワシントンの息子、ジョン・デヴィット・ワシントン。父親譲りの思慮深い佇まいと軽薄な若者像を同居させてて良かった。声と話し方、お父さんそっくりね。

アダム・ドライバーは相変わらず高値安定っていうか、心不安定な不治の厨二病をこじらせたような青年キャラを好演。差別するのもされるのも無関係だった青年が、差別する側を演じてその狂気を知って目覚めていく過程が素敵。

個人的にはハリー・ベラフォンテがいまだご健在だったのが驚き。語り部役で若者たちに過去の惨劇を語り継ぐ重要な役回りをご好演。偉人すぎて勝手に天国の人にしてました、ゴメン!😰
あと、クワメ・トゥーレ演じたコーリー・ホーキンス。「ストレイト・アウタ・こんぷとん」で演じたドクター・ドレーのイメージが強くて、発するメッセージの強力さがいや増して突き刺してくるようだった。顔おっかない。

KKK入団儀式のシーンはいくら芝居とはいえ精神的にキツかったらしく、「これは芝居。作り物」と言い聞かせて撮影に挑んだとか。幹部デビット・デューク演じたトファー・グレイスは実際に心を病んでしまって、数週間に渡って鬱状態に苦しんだそう。
引用された映画にしろ、撮影中のエピソードにしろ映画の影響力の怖さを知る傑作でした。


28本目
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