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存在のない子供たちのakihiko810のレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
3.9
レバノン映画。アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。

両親が出生届を出していないため推定12歳の主人公の少年ゼインは、人を刺して懲役5年の刑を受けていた。その彼が今度は自分の両親を訴えた。「僕を産んだ罪」によって。
そこから彼がどうして今この場にいて、両親を訴えたのかが描かれていく…

「自分を産んだ罪」によって両親を訴える映画、ときいたときは「反出生主義映画か?」と思ったのだが、観てみたらそんな甘っちょろい作品ではなかった。
移民や難民、貧困、児童搾取問題をぼかすことなく真正面から見据えた骨太の社会派ドラマだった。

両親が11歳の妹を売り飛ばして結婚させたことから家出し、不法移民の女性と知り合って働くことになるが、その女性も不法移民だとバレ、ゼインは彼女の赤ん坊と二人ぼっちになってしまう…

次から次へと迫りくる過酷な現実。だが不思議と心痛まずに見れるのは、「ひとりで生きていく」と覚悟したゼインの力強さによるものか。

物語の最後、裁判で両親は「なんでこの子は私たちを目の敵にするのか」と涙するが、彼女たちも教育がなく「弱者」から抜け出すすべを知らないからだろう。親の理不尽に怒り一人で生きていくと決めたゼインと比べると、愚かな存在になってしまうが。親たちはこの作品では「悪人」であるが、同時に愚かで哀れな弱者=社会の犠牲者として描かれる。

本作はドキュメンタリータッチで描かれているのでリアリズムもある。
しかし過酷な場面ばかりが描かれ、たとえば是枝監督「誰も知らない」みたいな「過酷ななかでのユーモア」というのはなかったように映る。
なので個人的には「好きな作品」といえるまでではなく、「骨太な佳作」どまりの作品という評価。
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