歯医者のお姉さん

存在のない子供たちの歯医者のお姉さんのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
3.5
「ケチャップでさえ製造日がわかるのに」

出生記録のない少年を辿る。ドキュメンタリーかと錯覚してしまう演出演技。没入感があり観ていて辛くなる。

学校に通う生徒を尻目に身を粉にして働くゼイン。ゼインの親の葛藤。ゼインを拾ってくれた女性の秘密。子供は商売道具という刷り込まれた認識。怒りが沸々と湧きあがりますが、一体誰を恨めばいいのか、どうすることもできないこの気持ちを消化する術が分からない。負の連鎖は止められない。どうすれば救われるのか、どこから変えていけばいいのか見当もつかず、壮絶な世界に対し自分の無力さを感じました。

表情を変えないゼインにこれが彼らの当然・日常であるのだと嫌でも突きつけられる。こんな環境下に置かれてもなおゼインが涙を見せるのは人のためなのだと気付いた時、目頭が熱くなりました。若干12歳で自分のことをボロ雑巾と例えてしまうことが悲しすぎる。

誰も責められない世界で生きるということはきっとこの映像だけでは理解できないくらいに苦しいものなのだろうと、居た堪れなくて涙が出た。きっとゼインは小さな頭で原因を辿って辿って、そこに行き着いたのだろうけど、きっと大人になればまた違う面にも気付き、根源の深さに絶望するのだろうな、ゼインの親のように。その瞬間を思うと残酷で、あのやっと見せた笑顔が消えてしまわないことを願うばかりです。

周りの大人たちと同様汚い言葉遣いで、ギャングのような仕事で儲けるゼインだけれど、賢く優しい彼のことですから、環境さえ違えばきっと彼がなりたがっていた"尊敬される人"になれただろうに。せめて私でも出来る事って何だろうと考えた時に、ありきたりで細やかではありますが募金活動に参加するとか、この作品を人に勧めたりだとか。そして恵まれた環境を無駄にせず生きようと思いました。