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存在のない子供たちのericaのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.5
"両親を告訴する。僕を産んだ罪で"
"育てられないなら、産むな"
"尊敬される人間になりたかった"
"人の心がないのか"
"僕は地獄で生きている"


どれも12歳(推定)の少年が言うセリフだろうか。

本作はあくまでもフィクションであり、1人の少年がこれだけの体験をした、という事実を描いている訳ではないが、中東地域の中でもとりわけ貧しいスラム街では頻繁に見られる光景であり、現実なのだろうと思うと、言葉に詰まる。
観ている間は静かな怒りと、虚無感に包まれた。。

舞台はレバノンのベイルート。
レバノン、ベイルートといえば最近鑑賞した「判決、ふたつの希望」の舞台でもあったので、記憶に新しい。
レバノンという国が歴史的にも宗教的にも非常に複雑な事情を抱えているということは、この映画を通して既に学んでいたので、今作にも入り込みやすかった。
「判決、ふたつの希望」は、人種間の対立を描いた見事な法廷劇の傑作だった。
今作も、両親を訴えるという法廷シーンから始まるので共通点は多い。

難民問題、不法移民、不法就労、人身売買、、
など様々な国際問題が取り扱われている。

同情を買うような過剰な演出など一切なく、ただひたすらに貧困が招いた過酷な実態が淡々と描かれる。
子供目線の低い位置からのカメラワーク(ずっとではないが、場面により使い分けられていたと思う)は、こちらも最近鑑賞した「フロリダ・プロジェクト」と同様に、まるでドキュメンタリーを観ているような感覚に陥った。
アメリカ郊外の安モーテルと中東の貧民窟とでは、比べ物にならない程生活レベルは異なるが、貧困という負のスパイラルからなかなか抜け出せない人々の暮らしを描いているという点では共通していると思う。
今作に関して言えば、ゼインの両親が不法移民であったために、生まれながらにして正式な戸籍はないし、出生証明書もない。
そんな親から生まれる子供もまた、社会的に存在がない。
この負のスパイラルはどこかで打破しなければ永遠に続いていく…
法廷でゼインに訴えられた両親は、自分たちだって苦労している、被害者だ、と言わんばかりに反論する…実の息子に対して…
そう訴える母親のお腹の中には、また新たな命が宿っている。
負のスパイラルは続いていく。。

たった12歳の少年は、毎日を生き抜くために精神的に強制的に大人にならざるを得なかった。
これはものすごく悲しいこと。
初潮を迎えた実の妹を、"大人たちにバレないように"必死に守ろうとする。
なぜならどこの馬の骨かもわからないような男に、本人の意志に反して嫁がされるからだ。
少女は11歳で結婚させられるということも信じがたい事実だが、ゼインがこういったことへの知識を12歳の時点で持っていること自体がもう驚愕だし、同時に悲しい。。
"自分の娘を売るのか?!"
実の息子に指摘された両親は、ゼインに対して逆上し、怒鳴り散らす。
あまりに非現実的すぎて、過酷すぎて受け入れがたいシーンだった。

あと、個人的に印象に残ったのが、
ゼインが水道の蛇口をひねり、茶色い泥水が出てくるシーン。
そこでゼインが漏らした
"マジかよ。最低な国だな"
というセリフが頭から離れない。
他にも過酷で辛辣なシーンやセリフはたくさんあったのに、何故かこれがすごく印象に残った。
これはゼインがぽろっと、あまりにも自然に漏らした本音だからこそ、より心に刺さったのかもしれない。
日本では蛇口をひねれば当たり前に綺麗な飲み水が出てくる。
生きる世界が違いすぎる。。
何故日本はこんなにも恵まれているんだ、、
ぬくぬくと生きている場合ではないな、、
と思わされる。。

法廷で
"両親に求めることは?"
と裁判官に問われ
"もう子供を作るのはやめて"
と言い放ったゼイン。
実の息子にこんなことを言われる両親は恥ずかしくないのか?プライドはないのか?
いや、もうそんなものは超越している…
両親だって毎日を生き抜くのに必死。
子供を作ることが唯一の生きる希望(金銭的にも)につながると信じてやまない。
ゼインのこの悲痛な訴えは、自分の両親を通して、不条理なこの社会全体に向けられているんだなと思った。。

ラストシーンのゼインの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
あの笑顔とシャッター音と同時に、ゼインはこの世に本当の意味で"存在"したのだなぁと思った瞬間、涙が出た。

あと原題「Capernaum」の意味について調べてみると、"物事が無秩序に蓄積した状態"="カオス"を意味するらしい。
なるほど、邦題もいいけど原題も素晴らしい。


そして全くもって余談だけど、最近諸事情により忙しすぎて、劇場・自宅鑑賞含め今月観た映画が「トイ・ストーリー4」と今作の2本だけという、自分としてはあり得ない数字でもはや事件。笑
観たい映画が溜まっていく、観たいのに観れないというジレンマとずっと戦っていました😂
もう解放されたので思う存分観ます…笑
映画はやっぱり最高です。。