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存在のない子供たちのtaruponのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.6
中東のレバンンが舞台。最貧困層の家庭で、出生証明書すら出されず法的には存在していない。学校にも行けず、親はいるが、兄弟達と今日のために働き、ひたすら生きている少年の物語。
両親を訴える裁判の過程で、「育てられない子どもをなぜ生むんだ」という主人公ゼインの叫びが重い。

人間自分の限界を超える事実を前には、涙も出ないのだなと思った。
ゼインも泣きそうに一瞬なっても涙となる前に拭ってしまう。彼らには、悠長に泣いている暇なんてなくって、自分自身、そして自分が守らなければならないものを生き延びさせなければならない。
そして、ゼインは自分達を脅かすと感じる大人へは敢然と立ち向かっていくが、妹のサハルや後半成り行きで預かることになったヨナスに対しては全力で守ろうとする。自分自身が無事に生き延びていくのすら大変そうな中でその気持ちの強さ、乗り越えようとする強さはすごいなぁと思う。
(このヨナス演じる赤ちゃんが、実に良いんだよね!名優!)

万引き家族も、日本の貧困層の話だったが、万引き家族はそれは大人としてどうよとかいろいろ脳内で突っ込む余裕があるのだけれど、これは圧倒的な現実を前に、とにかくゼインの生き抜く力に圧倒される。

ゼインの、本当に強い見通すようなまなざしが印象的。こういう素人や新人を使う場合、その子自身が持つ力、特に目に宿る力って重要なんだろうな。「誰も知らない」の時の柳楽優弥とか、この間見た幸福なラザロのラザロとかに共通するものを感じる。

最後、身分証の写真を撮るために、初めて笑うシーンが印象的。
未来を感じることができる。

日本でのほほんと暮らしている私には、新聞やニュースで垣間見るだけでは到底想像力の及ばない世界を伝えてくれるこの映画に出会えたことに感謝。
だから私の世界が変わるわけではないけれど、でも知っていることと知らないでいることには大きな隔たりがあると信じている。
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