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存在のない子供たちのsomaddesignのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
5.0
中東の「誰も知らない」

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わずか12歳で自分の両親に対して裁判を起こした少年ゼイン。裁判長から「何の罪で?」と聞かれたゼインは、「僕を産んだ罪」と答えた。中東レバノンのスラムに生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に劣悪な労働を強いられていた。唯一の支えだった大切な妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を飛び出したゼインは、エチオピア移民の女性ラヒルに助けられる。昼間はラヒルが掃除夫の仕事をしてる間、彼女の幼い息子ヨナスの子守をする生活が始まる。貧しいながらも幸せな日常を得た彼らを待っていたのは、さらに過酷な“現実”だった。
2018年・第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞

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2019年ベスト級きた!
過酷な現実が背景にあって、軽々に面白い!とか素晴らしい!って言いにくい。

まずもってレバノンとビバノンの違いがあやふやな位アホな自分は、Google先生に頼って位置を確認。シリアの真横やんけ!
地中海の東端にあって、パレスチナやシリア内戦等ずっーーーーと戦火が消えない地域のイメージ。岐阜県とほぼ同じくらいの国土に600万人が暮らしてるところに、シリアやパレスチナから100万人規模の大量の難民が流入してるんで、ハチャメチャな事になってるんだそう。2017年には人口の1/6が難民で「人口に占める難民の数」が2位ヨルダンに大差をつけて世界一。


混迷極める地域のすごくすごく片隅で必死に生きてる少年が、「自分が生まれてきた意味」を問う話。少年の目を通じて中東の貧困や移民・難民問題のリアルを突きつけてくる。

選んでその国に生まれてきたわけではないけど、その国から身分を確定してもらえないと存在しない事になっちゃうし、身分が確定したおかげで被差別民になったりもする。

ネグレクトの親を糾弾するのは簡単だけど、その背景にある一筋縄ではいかない暗い暗い現実を見るのが辛い。
途中MCUのお馴染みヒーローによく似たキャラクターが出てきたり、周囲の大人達が救いの手を伸ばせそうなのに、むしろゼインを突き放す。道端に飢えて転がる子供の姿が日常風景ってリアルも救いがないし、ヒーローはいないって現実を受け入れるゼインの絶望も深い。

子供を売った親を非難する気持ちの一方、幼い弟のためにその決断も受け入れなければいけないゼインの引き裂かれる心情に、見てる方も引き裂かれる思い。

ナディーン・ラバナー監督が3年かけてリサーチしたという執念こもった傑作。主人公ゼインを筆頭にほとんどのキャストが演技経験のない人々で、実際に難民だったり市場のオッサンだそう。
ラバナー監督によれば、リサーチ中に出会った貧しい子供達に「自分が生まれてきたことは幸せか?」と問うと99%がNOと答えたのだとか。

プロパガンダ映画と違って、分かりやすく誰かを糾弾するわけじゃない。今起きてることを明らからにすることで、今できることを考えるような映画だと思った。
遠い異国の話のようで、すごく身近な物語に感じさせる普遍的な問いかけがあった。

あと、邦題のモリサワA1明朝体のタイトルロゴがカッコいい


71本目
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