フェルビナク

存在のない子供たちのフェルビナクのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.5
必見。
でも「お勧め!」というのともちょっと違う。
自分のようないつも自信の無い人間であれば、己の無力さをあまりに鋭く突きつけられて落ち込んでしまう(可能性がある)ので、ぜひ、観るのは心身とも弱っていない時に。

子供たちの悲惨な状況、貧困をテーマにした映画やドキュメンタリーはこれまでも観てきたが、そのどれとも異なるざらついた手触りがあった。それが、上手く言葉に変換できずにいる。

レバノン・ベイルートの混沌(原題)の中で暮らす少年・ゼインの物語。これは、ドキュメンタリーなのか、劇映画なのか、その境界線を考えることすら愚かに思えるような、圧倒的なリアル感と「虚構」のストーリーの巧みな融合によって、昨今ありがちな「社会派風のライトなサクセスストーリー」とは一線を画す、まごうことなき「社会派」映画が創り出されていた。

主役の少年はじめ、キャストがほぼ素人で、それぞれ役と同じような境遇を送ってきた人たち、セットを最小限にとどめた現地での撮影、ということなので、観客が見せられているのは、役者の「芝居」ではなく、人生、もしくは実際に見聞きしてきたことの「再現」だ。

自分の過去や見聞をカメラの前で自然に再現することなど、プロの役者にとっても簡単なことではないし、素人のその積み重ねを、一つの「劇」として成立させているこの監督の手腕は相当なものだ。宗教の無力も巧みに取り込むなど理念先行でありながら、(誤解を恐れず言えば)「エンタメ」であることも見失っておらず、激情に駆られて「正義」の旗を必要以上に振りかざしてくることもない。

ところが、油断していると、急に上空からの町の俯瞰の映像に切り替わる。そのことによってスクリーンの中に没入していた観客は「客席に座っている自分」にぐいっと引き戻された上に、あくまで冷静に、あなたは何かできるのか?と問いかけられる。

…すみません。今の自分にできることは何もありません。
素直に頭を下げるしかなかった。

でも日本でも、貧困や暴力に纏わる子供たちの悲惨なニュースを聞く機会が増えているように思う。社会体制・経済状況は異なれど、決して遠い国の話ではないのだ。

正直、この映画を観たことで、凡人である自分の生き方がすぐに大きく変わることはないだろう。ただ、次に、何か、新たな仕事、行動を起こすときに、あの少年の目、そして、あの思わず声を上げそうになるラストシーンを思い出すことがあるかもしれない。

それが自分に何か影響を与えるかどうか、まだよくわかっていない。