Shiho

存在のない子供たちのShihoのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.8
すごく良かった。予告を見て法廷劇かな?と思っていたら全然違った
子供たちと街の描写がとてもとても素晴らしい映画



恐らく12歳の少年ゼイン君の話


ベイルート(?)の貧しい貧しい街を映し出す前半が特に素晴らしい。
壁の壊れたアパート群、砂利道で埃だらけの街角、仕事がなくただ外に立っている男たち、不規則に行き交う車と排気ガス、クラクション。子供の鳴き声、人々の喋る声、溢れる音。雑踏。土ぼこり。

所々ぼやけ、立体感のある撮影がとても素晴らしく、まるで旅行でその街を訪れたかのよう。ドキュメンタリータッチで、この前半だけでも見る価値があるのでは、と思う。


子供だけは次々作りながら、仕事もせず自らを哀れんで面倒も見ずに底辺で生きる両親の元に生まれたゼイン君。

必死で妹を愛し、街角で物を売り、行きたい学校にも行けずにチンピラまがいの男がやっている商店で働く毎日。


とうとう家を出たゼイン君。ここから後半はゼイン君の視点で、ものすごいスピードで物語が動いていく。これが良い方向にだったら良いのだけれど……


存分にゼイン君の厳しい状況を見てしまった後では、後半は号泣しかなかったです


とにかくゼイン君役の彼が素晴らしい

「どうか、どうかもう子供を産まないで。僕らのような子供を作らないで」

このセリフに本当に心を潰されるような思いになる。

だけど、かわいそう!!という悲痛さを味わうだけの映画ではない所がすごい。
子供たちの生き生きとした表情、生命力溢れる街、必死で誰かを守る愛情。そういうところがリアリティーをもって丁寧に描かれているので、不思議と見終わった後に心の深いところから力が湧いてくる。絶望と生きる力、生きる尊さを感じる。


何年かぶりにパンフレットを買って、主役の子の経歴を見てさらに号泣

「スウェーデンに行こうね」
って、映画の中で言ってた

キャストはほぼ、役と同様の境遇にあった素人の人たち。見た後も様々なシーンを思い出しては様々考え込みます。
映画館で見られて良かった。
Shiho

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