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存在のない子供たちのslowのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
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逃げ遅れた感情は立ち竦み、まぶたは涙を匿い切れない。ひとたび流れてしまえば、落下しても落下しても、地に落ちる日など来ないと知りながら、それでも涙は生まれ続ける。こんな恐ろしいことがあるだろうか。底を知らない絶望と、罷り通る希望の罠。涙は頬の乾かぬうちに、またひと粒、落ちていく。

本作の撮影に辛抱強く膨大な時間と労を惜しまなかったのは、レバノンの今を限りなくドキュメンタリーに近い形で作品にするため。ナディーン・ラバキー監督の覚悟をここに見た。キャスティングされた演者たちは、実際に劇中のような境遇に身を置く素人の方が殆どなのだそうで、全ての表現が内から出る極自然な感情であり反応であったのだろう。中でもゼインを演じたゼイン(本名が役名と同じ)の説得力は凄まじかった。正直、泣ける映画ではない。登場人物たちの泣きながらも何かを訴え続ける姿を見ていると、泣いている暇などなかった。『シティ・オブ・ゴッド』『誰も知らない』『海は燃えている〜』…などなど、連想される作品は多い。これらが響いたという人は、是非本作も鑑賞してみて欲しい。
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