MasaichiYaguchi

バハールの涙のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
4.0
原題〝太陽の女たち〟や本作の内容からは、平塚らいてうの「元始、女性は太陽であった」や、ヴィクトル・ユーゴーの「女は弱し、されど母は強し」という言葉を思い出す。
この作品は、2014年8月3日にISの攻撃部隊がイラク北部のシンジャル山岳地帯に侵攻したことにより、そこに住む少数民族ヤズディ教徒が被った悲劇と、それに負けずに立ち向かった女たちの姿を、ある事で夫と片眼を失った戦場女性記者マチルドの目を通して描いていく。
そして現代の武力紛争による犠牲者は、戦闘員より非戦闘員である一般市民の方が多いということを改めて痛感させる。
2018年のノーベル平和賞共同受賞者のナディア・ムラドは、正に本作で描かれた筆舌に尽くし難い恐怖や苦痛を経験したヤズディ教徒の一人であり、彼女は本作のヒロイン・バハールのように武器は取らなかったが、自らの体験を語ることで戦っている。
この作品のバハールが武力で戦うのには大きく理由が二つあると思う。
一つは人質の幼い息子を救う為と、奴隷として扱われ、女性としての尊厳を踏み躙られたことに対するリベンジであり、そして現在も奴隷として扱われている同胞の女性を救う為でもある。
映画は、バハールの現在の戦いと並行して、弁護士として夫と息子との幸せな日常から暗転して奴隷生活、そこからの脱出、そして女戦士のリーダーになるまでの道のりをスリリングにドラマチックに描いていく。
果たして彼女は息子を取り戻すことが出来るのか?
ある意味、バハールと似たような境遇の戦場記者マチルドは、最後に何を見出すのか?
劇中の印象的な台詞「人間というものは、悲しいことから目をそらしたいのだ」というのがあるが、我々も「遠い国で起こっていること」と目をそらして無関心であってはならないのだと思う。