晴れない空の降らない雨

イメージの本の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

イメージの本(2018年製作の映画)
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 色やコントラストを加工されまくった映像の断片たちが、もともとの文脈を失いある種のオブジェとして強度をもって音とともに殴りかかってくる。ゴダールの言っていることも断片的にはわかるが、全体としてはやはり難解で、「イメージという言語で書かれた本」を読まされた、ということだろうか。前作『さらば、愛の言葉よ』も原題を直訳すれば『さらば、言葉よ』であり、その実践を続けている形なのか。そういえば言葉と言語の関係について否定的なことが言われていたような気がするが思い出せない……。
 とはいえ、字幕を読みながら鑑賞する人間としては尚更そうかもしれないが、むしろイメージが断片化されるなかで、ゴダールの言葉だけをガイドにすがりつくような鑑賞体験でもあった。例えば対位法の説明は、おそらくはゴダール自身の方法論を物語っているという点で分かりやすくはある。つまり、「和音から旋律をつくる」のが普通の物語映画だとすれば、「異なる複数の旋律から和音が生まれる」のがこの映画のスタイルだと。
 また、ゴダールは言う、「1秒を語るには1日を、1日を語るには永遠の時を要する」。あるいは「表象は暴力を伴う」とも。ここには、デジタル時代における“分かりやすい”イメージの繁茂に真っ向から対する姿勢が窺えるのであって、映像が不鮮明に加工されるのもそうした意図によるものだろう――といった風に理解・納得できなくはない。
 しかし、こうして言葉で把握しようとすればするほど空疎に聞こえ、あの鑑賞体験の大半がこぼれ落ちていく感じがするのである。手や列車のモチーフについても、何を考えようと全く的を外しているように思われるのである。まぁこれは、どの映画にも多かれ少なかれ当てはまることだと思うが、とりわけ映画としての純度が高い映画だった、ということになろうか。その一方で、語られる言葉が、そこから力を得ているのも確かだ。あくまで革命を語り、希望を語るゴダールの力強さ。今や希有とさえ思える怒るという能力。