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ドッグマンのumisodachiのレビュー・感想・評価

ドッグマン(2018年製作の映画)
3.7
イタリアで実際に起きた事件を元にした作品。最近こういうのが続くな。

バツイチのマルチェロは、犬のトリマーとしてイタリアの田舎町に店を構えている。大の犬好きだし、別れた妻との間にできた娘とも良い関係を続けていて、それなりに幸せ。でも、ひとつだけ問題があった。町の厄介者であるシモーネにいいように使われているのだ。

シモーネは、身勝手で暴力的でどうしようもない男だった。しかし、暴力行為で数か月刑務所送りにしたところで、さらに酷い事態が待っているだけだと、町の人間たちは諦めていた。内心、「死んでくれないかな」と思いながら。

密かにドラッグの密売をしていたマルチェロは、シモーネと関係を断つことができない。金を踏み倒されたり、盗難の片棒を担がされたりと散々だが、たまには良い気分にさせてくれることもあった。

ある日、シモーネは決定的な事件を起こしてしまう。マルチェロはすべてを失うことになるのだが……。

かなりヘビーな映画だった。まず、シモーネの悪意がすごい。『アレックス』に出てくるレイプ犯以来の醜悪なキャラクターで、なにひとつ良いところがない悪の塊だった。あんなのが近くにいたらもうどうしようもないよ。絶望するしかない。

あまりにシモーネがキツいので、凶悪なジャイアンにやられっぱなしののび太が、最後にはジャイアンを打ち負かす話なのかと期待したものの、やはりそんなに生易しいストーリーではなかった。そして、恐怖の対象はシモーネから、まるで理解できない行動を取るマルチェロへと移っていった。

マルチェロはまさに「犬」だ。「あいつの犬」という意味での犬。マルチェロは、誰かに帰属していたくて常に怯えている。だから、客観的に見たら酷い扱いを受けていても、ほんの少しだけ見せる優しさにすがってしまう。マルチェロはただ、「俺はお前を認めるよ」「お前の気持ちはよく分かるよ」「お前は俺の友だちだ」と言ってほしくてたまらないのだ。

マルチェロの歪んだ深層心理は、彼の行動を狂わせる。行き当たりばったりの判断は理解に苦しむものばかりだが、「自分を受け入れてもらいたい」という一念に突き動かされているのだと分かってみて振り返ると、どれも説明がつく。下手なホラーよりも、その心理状態が怖い。世の中のけっこうな数の事件が、マルチェロと同じような気持ちから発生しているのかもしれない。寓話的な映画なのに、そう思わせる力がある。

イタリアの海辺の町が舞台なのだが、面白いロケーションだった。打ち捨てられた遊園地の廃墟みたいな広場に面した、朽ちかけのビル。どこか非現実的な風景が、映画の寓話性を高めている。悪夢を見ているようなフワフワした質感なのに、ときどきコミカルだったりするノリが、不穏さを増幅させていた気がする。

あ、もちろん犬が可愛い映画だよ。マルチェロが犬を復讐に利用したりしたらどうしよう!?と少し心配したけれど、さすがにそんなことはなかった。マルチェロの犬愛は本物。
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