三樹夫

誰もがそれを知っているの三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

誰もがそれを知っている(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

スペイン版ブルーベルベット、ツイン・ピークスといった作品で、陽気な仮面の下にある闇が噴出する。経済不況により、結婚式の雰囲気のようなスペインの理想の家族親類関係が崩壊。というより、元々理想の家族親類関係なんぞはすでに亀裂が入っていて、抑圧的なまでに陽気という蓋で押さえつけていたが、不況によりごまかしもきかなくなったのかもしれない。
俺は冒頭のような、ああいう親類付き合いとか家族付き合いはすんごい嫌なので、居心地の悪さを感じていたが(陽気ファシズムと俺は思っている)、こんなもんは虚飾だろという制作者の目線があってなんか安心した。季節労働者や更生施設の連中を思いっきり疑う偏見にまみれた奴ばっかだし、主人公の父親は頑固という言葉では済まされんようなクズだし、村民は噂話大好きという田舎の陰湿さが描かれていて(ラストもロシオが誘拐犯人という噂話がこの後村中に広がるということが示唆されて終わる)、スペイン人じゃない監督から見た、お前ら陽気にふるまってるけど奥底ではドロドロしたもの抱えてんだろという、スペイン感が出ているように思える。
スペインに留学したことあるけど、暗いとかネガティブとか悲観主義と自分の性格を紹介すると軽い病気扱いというか、なんでって言われるからね。抑圧的なまでに明るさを求められて(最低でも俺はそう感じた)、明るさ至上主義みたいなのはどこかでほころびが出ると思うんだけど、作中では主人公の娘が誘拐されたことで人間関係が崩壊していくが、根底にあるのは長引くスペインの経済不況で、主人公夫妻は夫が2年無職で金は無くて、犯人の夫妻も金が無くて、というより登場人物全員金がない。金がないというのが根底にある話であるというのは、教会の神父か牧師でさえも金の話をするというのに表されている。

ハビエル・バルデムは何も手に入らないし大きなものを失うというのを、見事な表情一発で表現していて、観客も同じような顔して劇場を後にするような陰鬱な気分になれる映画だった。
三樹夫

三樹夫