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誰もがそれを知っているのsatoshiのレビュー・感想・評価

誰もがそれを知っている(2018年製作の映画)
4.3
 『海辺の生と死』『セールスマン』のアスガー・ファルハディ監督最新作。彼の最新作ならばということでもちろん鑑賞した次第です。

 ファルハディ監督は、『セールスマン』において、「妻を襲ったのは誰か」というミステリー的な内容をメインに据えつつも、そこから社会に存在している問題点や、男性が持っているマチズモ的思想を表面化させていました。ファルハディはこのような内容の作品を多く世に送り出しています。

 本作もそういった内容が色濃く出ています。本作で描かれるのは誘拐事件。事件を通して、結婚式で集まった親戚一同の中に溜まっていた不満が徐々に表面化していく様を静かに描き出します。

 本作は、アルゼンチンで暮らすラウラ(ペネロペ・クルス)が、親戚の結婚式に参加するためにスペインに戻ってくるところから始まります。この冒頭で本作の登場人物をほぼすべて紹介してしまいます。これはさながら『悪い奴ほどよく眠る』や『ゴッドファーザー』のようでした。祝福ムードな結婚式ですが、その間にちょっとずつ、周囲の人間の表情、視線が挟まれます。それらはどれも冷ややかであり、この村全体から見れば、何なら少し浮いてさえいる感じすらあります。ここから、この村、そして家族には不穏な雰囲気が流れていることが分かります。

 少しずつしか現れなかったそういった不穏な空気は、事件が起こってから一気に表面化します。パコ(ハビエル・バルデム)は実はラウラの家の召使の子供であり、土地をラウラから買い取り、自分の努力で一大農園にまで育て上げたこと。そして、その成功をラウラの父親は妬んでいること。また、ラウラの夫、アレハンドロ(リカルド・ダリン)はラウラの家族からは「成功している」と思われていたものの、実はもう彼は職を失っていること、そしてそれに劣等感を抱いていること。移民の労働者によって、多くの人が「職を奪われた」と思っていること。等々。事件をきっかけにして、こうしたそれまで誰もが自覚していながらも隠されていたことが表面化するのです。

 こうした「誰もが知っていた」ことが表面化しつつも、事件は解決します。ただ、そこはさすがファルハディで、ラストで水によって真っ白になった画面を映して終わらせます。本作で表面化したことは、未だに解決していない。そんなメッセージ性を感じました。

 「少女誘拐事件」という非常に入りやすいサスペンスを軸にしつつも、そこから表面化されることをさりげなく描写し、「今」の社会問題を切り取って見せるアスガー・ファルハディ監督、やはり素晴らしい。
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