カツマ

アップグレードのカツマのレビュー・感想・評価

アップグレード(2018年製作の映画)
4.0
復讐の影に蠢くパズル。暗躍する虚ろなピースはばら撒かれ、鋼鉄の街を血の色に染める。増幅した怒りのやり場を求め、その男にはもう改造人間となる道しか残されてはいないのか。出口など見当たらない。しかし、もう進むことしか許されない。スタイリッシュに進撃し、待ち受ける衝撃の緩衝材などもはや無い。

SAWシリーズの脚本で知られ、2015年には『インシディアス』で監督業へも進出したリー・ワネルが監督と脚本を兼任。完全に彼のコントロールのもとで製作された、近未来を舞台に送るクライムサスペンスである。シンプルかつ巧妙な物語と斬新な設定を見事にドッキングさせ、他のどんな作品とも似ていない不気味で不敵な新しい形の復讐劇を構築した。これぞ脚本畑の達人、リー・ワネルの職人技なのか。謎をスピーディな展開力の中へと溶け込ませながら、自然と回答へと辿り着くことができる、細部までよく練られた作品だ。

〜あらすじ〜

舞台は近未来。人類とコンピュータの蜜月は進み、車の自動運転などコンピュータに依存する生活様式が当たり前になっていた。
自動車整備士のグレイは妻のアジャと共に顧客の車を届けに行った帰り、身体を機械化した暴漢たちの襲撃に遭い、愛する妻を殺され、自身は全身不随の大怪我を負ってしまう。
それから3ヶ月後、手足が動けなくなりベッドの上で寝たきりとなっていたグレイ。見舞いに訪れた彼の友人でもある天才エンジニア、エロンはとある提案をする。それは最新技術を駆使したAIチップを埋め込むことで、グレイの全身不随を治してみせるというものだった。結局グレイはその実験の初の被験者となり、再び稼働する四肢を得た。自由を手にしたグレイはとあるキッカケで妻殺しの犯人の手がかりを発見。機会を埋め込んだ身体を擁して復讐を開始する・・!

〜見どころと感想〜

まるで一昔前のネトフリ映画の小品のようにミニマル設定を持つ。しかし、物語の完成度と設定の斬新さはかつてのそれらとは一線を画しており、非常に隙がなく、また異常なまでにテンポが良い。身体にAIチップを埋められ改造人間となった主人公が殺された妻の復讐をする、という至ってシンプルな帰結もナイス。容疑者は決して多くはないためストーリーは読みやすいが、それでもその展開力に魅せられて一気に走り抜けてしまうだろう。

主演には『プロメテウス』や『スパイダーマン、ホームカミング』などに出演歴のあるローガン・マーシャル=グリーン。非常に地味な絵面だが、命に未練がなく復讐に身をやつす男という悲壮感を抱える役が彼の仄暗い雰囲気に絶妙にフィット。助演には『ゲット・アウト』のあのメイド役で強烈なインパクトを残したベティ・ガブリエルが出演している。

復讐心は燃え上がり、アップグレードされた身体は無双する。だが、そこにある真の意志に気付いた時、物語はそう単純なものではなかったことを知る。堕ちる以外の未来はあるのか?ラストまで立っていられるのは果たして誰だ。

〜あとがき〜

さすがはリー・ワネル、と唸りたくなるほどの構成美と劇中作家としての物語の運搬の旨さが光る作品でしたね。やはり脚本畑から監督業に進出している人は信頼できます(笑)
また、その近未来感も安っぽくなく、シーンの要所要所に差し込まれるマシンの所在でそれとなくリアルな未来を上手く再現。AIを埋め込まれて超人になるという設定も仮面ライダー的な改造よりも現実的。そんなAIチップが生まれたら果たして人類はどんな未来を選択するのだろう、なんて思わず夢想してしまう作品でしたね。
カツマ

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