Tako

アップグレードのTakoのレビュー・感想・評価

アップグレード(2018年製作の映画)
3.0
強盗により妻を失い、みずからも不具になりながら『人工知能』の力を借りて復讐を決意するSFアクションスリラー。
テンポよく進行するストーリーは良作のそれですが、全体の雰囲気づくりやオチはやや貧弱……一番の難点はセリフのセンスがあまり良くないところ。

自動運転やAI技術が進歩した近未来を舞台とした作品です。
機械によって体を強化したり、身の回りの家電がAIでコントロールできたりと、誰しもがイメージしやすい「SF」な世界観で、こういった作品にあまり馴染のない人でもとっかかりやすい点はグッド。
ただ、あまりにもテンプレ的であり、具体性があるようでぼんやりとした世界観描写をしているので、見ようによっては薄っぺらい印象を受けてしまいます。
この作品ならではの技術があるわけでもなく、ブレードランナーのような濃密な作り込みがあるわけでもない。
まぁSFといったらこれよねー、といった塩梅なので、個人的には物足らない感触でした。

この物足らなさに拍車をかけるのが人物造形で、まぁよくある感じ、の域を出ないキャラクターがほとんどです。
主人公は旧式の自動車をメンテナンスする技師ですが、昔堅気で昨今の機械化文明がご不満な様子(よくある)、大企業のトップは俊英の天才で色白でコミュニケーションが下手くそ(よくある)、敵の謎の組織のトップは猛禽みたいな目をして冷酷で自信家(よくある)、事件を捜査してくれる女刑事は主人公に理解がありながらも常識から逃れられず(よくある)、主人公の相棒となるAIはユーモアのセンスが通じず命令に実直で有能(よくある)……
と枚挙にいとまがないとはまさにこのこと!
お約束をきちんとおさえているので、ある意味では優秀ですが、物足らなくないといえばウソになります。
どこかオリジナリティー、あるいは癖とパンチのあるキャラクターをもう少し用意してくれれば、もっと強く印象に残る作品になったと思います。

もっともピンとこないのはセリフ。
これは翻訳にも問題があるのかもしれませんが、優れた映画特有のスマートかつリアリティーのあるセリフではありませんでした。
キャラクター造形の問題とも絡みますが、その場限り、場当たりのセリフが多く、セリフ以上の情報や情緒がほとんど込められていないように感じられます。
一番しっくりくるのは相棒のAIですが、これはまぁ、そうよな、といった具合です。(このキャラが見せたくて作った映画でしょう)

とはいいつつも、ストーリーの進行は決して下手ではなく、情報を得てそれに従って行動をし、また新しい情報と発見をしていくテンポは非常にスムーズでスリルに満ちています。
主人公がAIによって強化されているとはいえ、そもそもの肉体が半身不随であることも生かしたピンチの陥らせ方、しかもしれが最後のどんでん返しにつながっているところなどは巧みであり素直に楽しめました。
読もうと思えば読める展開には違いありませんが、単純にストーリーを楽しむことに集中していれば、十分あっと驚かされるオチでした。

また、本作で光っているところといえばもちろん戦闘シーンでしょう。
車いすに座ってまったく動けない人物が急に超強力な戦闘力を発揮する、というのは古今東西区別なく燃えるシチュエーションです。
しかもその戦闘スタイルはまるで機械のようであり、訓練された軍人でさえ手も足も出ません。容赦のなさも相まってほの暗い興奮を視聴者に与えてくる演出は見事。
ボスとの対決シーンも迫力あり、工夫ありと見どころとしてばっちりの仕上がりでした。

キャラクターや世界観にやや弱いところがあるものの、ストーリーテリングやアクションにはきらりとするものがある作品ですので、あらすじから気になった方にはオススメです!
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