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アメリカン・アニマルズのdm10foreverのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
4.0
【一方通行】

「あれ?これ初めて食べたけど美味しいね!素材の旨みも出てるし。うんうん・・・でも、何か足りない気がするなぁ・・・。塩味がちょっと足りないのかな」っていう感じ。

全体を通してみれば面白かった。面白かったんだけど、同時に若干の物足りなさを感じた。どの部分に対してなのかはよくわからないけど・・・。でも面白かったよ。

これは「実話を基に作った映画」ではなく「実話である」って言うのが「売り」の映画。
なるほど実際に本人や関わりがあった人々が出演して当事の状況や経緯、心境について解説しながら事件を紐解いていくという作りは、やっぱり観る側に与えるインパクトという点ではこれ以上ないでしょう。何て言ったって「本人」ですから(笑)
なので、「物語」という体ではあるけどんだけど、ドキュメントのような内容でもあり・・・。
これは作品全体に流れるテイストなんだけど、お話し全体が「物語」として語られながらも、途中途中で本人の感想がリンクするんですね。
それは「再現VTR」の間に挟める「本人談」としてではなく、「物語の中に本人が割り込んできて(そうじゃない)と突っ込みを入れていく」かのような。
なので、徹底して「(エンタメとしての)物語」に振るわけでも「事実だけを追求するドキュメント」に振るわけでもなく、それらをギリギリのところで触れ合わせるというやり方は面白かった。

この作品を観るとき、CMやフライヤーなんかでも『オーシャンズ11』『レザボアドッグス』などの名前が挙がっていたことから実際に『ヴィンテージ本を図書館から盗み出した大学生たちの「クライムアクション」』と思った方も多いのではないだろうか?かく言う僕もその一人だ。
しかし予め言っておくと、これは「クライムアクション」を楽しむための映画ではない。
なのでオーシャンズ11のような「華麗なテクニック」もなければレザボアドッグスのような「クールでカッコいいギャング」が登場するわけでもない。
ここに出てくるのは「昨日と今日、今日と明日の違いが見出せない退屈な大学生」の4人。
「何かが起これば特別な人生になる」とずっと期待している。
だけど、待っているだけでは何も起こらないことも知っている。

そんな時、主人公スペンサーはたまたま行った図書館の特別コレクション室に管理されているJ.J.オーデュボンのヴィンテージ本「アメリカの鳥類」が頭から離れなくなる。そして1200万ドルの価値があるその本の話を友人のウォーレンに話すところから事件は動き出す。

基本はちょっと悪い友達と集まったときに吹いた「与太話」みたいなのがきっかけ。それがいつの間にかどんどん話が大きくなってしまって、いつしか「いや、俺は全然本気にしてなかったんだけど・・・」すら言えない空気にすらなっていく・・・。
発端はスペンサーとウォーレンの「冗談にちょっとずつ本気を混ぜながら相手の気持ちを探る」会話が全て。そこにエリックやチャズを加えていく過程でも、あまりに突飛な作戦を聞かされて、最初は相手にしていないつもりなのに、いつの間にか(お前らは馬鹿か)と理論的な作戦を考え始める。
あくまでも4人は空想の中で「バベルの塔」を作り始めた。
そこでは上手く行くんだよね、何故なら空想だから。
強奪を脳内シミュレーションした時に流れる『A Little Less Conversation(プレスリー)』で強烈にオーシャンズ~を意識しながら(な、ちょろいぜ!)って声が聞えそうなくらいのノリ。

・・・だけど、現実はそんなに甘くない。

どちらかというと、実際に彼らが動いてしまった瞬間から彼らの転落が始まっていくんだけど、本当に馬鹿だねとしか言いようがない事なのに当の本人達は止まれない。

ウォーレンが暴走したから?

物語では上手い具合にウォーレンをヤンチャキャラに仕立てていた。だけど、彼はスポーツ推薦で大学に入学するくらいに元々は真面目な人間。彼が今回の事件で「首謀者」のような描かれ方になっているのは、彼自身が一番理解していたことだと感じた。
あのメンバーの中で、誰よりも「何もしなければ変わらない」事を痛感していたから。だから現実を見て怖気つく他のメンバーにハッパを掛け続けたのだ。
それは「今日とは違う明日にするため」。
だから、本当は自分でも上手くいくかなんてわかっていなかった、というか上手くいかないことは薄々気がついていただろう。

実際、事件は起きる。
しかし、思っていたのとはまるで違う展開にもはや計画はグダグダ。
昔チャップリンが「人生は近くで見ると悲劇だが遠くで見ると喜劇である」という名言を残しているが、まさにその通り。現場でパニックになる本人達にしてみたら発汗、鳥肌、失禁状態ですよね。どうしたらいいんだぁ!って。で、それを端から見ていると、パニック度合いが強ければ強いほど滑稽に見えてしまう。
本当に「笑えないコメディ」。

そして、全てにおいてグダグダな彼らは、当然の帰結として追い詰められていく。
ここの過程が意外としっかり撮られていて、ポイント高かった。
何も知らない家族と過ごしながらも、もし自分が捕まればこの大切な家族の笑顔すらも奪ってしまう・・・自分が悪いこととは言え、いつ終わるともわからないこの状況は発狂レベル。

だから、FBIが大挙して突入してきたシーンでは「あぁ捕まってしまった・・・」というよりは、観ているこちらですら「やっと捕まったね。よかった・・」と変な心境になってしまう。

「若気の至り」と言ってしまえばそうなのかもしれない。でも、彼らが頭に描いたバベルの塔は現実に作ることは出来なかった。
「自分たちが優位なうちに終わらせる」ことが出来れば誰も傷つけずに済んだ。
なんとも言えない虚しさが残る・・・。

この作品の面白いところは登場する人物の視点によって物語の色合いがちょっとずつ変わってくること。どんでん返しとかそんな事ではなく「あの時あったおじさんって紫のスカーフしてたよな?」「いや、ロマンスグレーの紳士だったよ」とか、ちょっとずつお互いの記憶が曖昧なところがあって、それは実は物語の核心でもあって・・・。

(この事件に首謀者はいない)

各自のこの事件の捉え方、考え方が違うのだ。そしてそれは映画を観ている私たちも含めて。

「あの時のことを思い出すとき、一体誰の視点になるのだろう?片方の視点で観たほうがきっと楽だ」

2人の人間がいても互いに頭の中で寸分違わない絵を描くことなんか出来ない。
結構深いことを考えてしまう映画でした。
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