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ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうたのpicaruのレビュー・感想・評価

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『ハーツ・ビート・ラウド』

隠れ傑作音楽映画を発見してしまった!!
観たい観たいと思いつつ、上映館の少なさから映画館で観ることが叶わなかった。
“音楽×旅立ち”の絶妙な組み合わせ。
ミニシアター系の自然なトーンの映画。
『君が生きた証』もそうだが、シネマカリテで公開される音楽映画って好きな作品しかない。

舞台はニューヨーク、ブルックリンの海辺の小さな街、レッドフック。
本編に時折挟まれる街並みのカットがどれも艶めいていて、雰囲気を眺めているだけでいい気分。
主人公はレコードショップを営む元バンドマンの父・フランク。
そして、医大進学のため勉強に励む娘・サム。
親子二人に人生の大きな変化が訪れる。

フランクとサムでセッションした曲が思わぬ形でヒットし、父の長年の夢である親子バンドの活動がはじまる。
てっきり音楽をきっかけに育まれる父と娘の絆の物語かと思っていた。
もちろんそれこそが本作のテーマではあるが、娘が生まれる前、夫婦でバンドを組んでいたエピソードや、さらにそのずっと前、祖父母の出会いに音楽が深く絡んでいたり、何世代にも渡って音楽が受け継がれていく様子がすごく気に入った。
複雑な思い入れのある自転車の描き方も素敵だった。

音楽に魔法がかかるライブシーンは本当に眩しい。
魅力的な楽曲と彼らを照らすライティングが駆け巡り、胸が弾む。
とびっきりの演奏シーンが好きだった。
演奏後、お客さんがいなくなったレコードショップで、ロックンロールに乾杯しながら親子でビールを飲むシーンはもっと好きだった。

なぜこんなに楽しんで観られるのかと考えたら、音楽関係の仕事をしている父のせいだった。
やはり、血は争えない(笑)

父はオーディオショップのオーナーだ。
私は娘のサムの気分で映画を味わっていた。
彼女が父親のレコードショップに入る様子なんか、私がたまに父のお店を覗きに行く時とそっくりで笑いそうになる。
そんな時、私はお客さんのフリをして、父は私だと気付いているのにわざと「いらっしゃいませ」なんて言ったりして、小芝居をするのがお決まりとなっている。

この映画は私が父のオーディオショップで観るためにつくられたのでは!?
と思ってしまうほど、ぴったりの作品だった。
幸運にも映画鑑賞設備は整っている。
サラウンドスピーカーをセットして、レコードプレーヤーに囲まれながら観る『ハーツ・ビート・ラウド』はどんなに素晴らしいだろう。
いつか映画のDVDを持ってこっそり父のお店へ行こう。
エンドロール中、そんなことを考えていた。
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