ミヤザキタケル

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話のミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

3.5
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
進行性筋ジストロフィーという難病を抱えた鹿野靖明と、彼を支えたボランティア達を描いた実話ベースの物語。

北海道札幌市
筋ジストロフィーを患い首と手だけしか動かせない34歳の鹿野靖明(大泉洋)は、医師の反対を押し切ってケア付き住宅でボランティアを募り自立生活を送っていた。
遠慮のない鹿野の発言やわがままに振り回されながらも、良き医者になるべくボランティアに参加する医大生の田中(三浦春馬)。
そんなある日、田中の恋人・美咲(高畑充希)が鹿野宅を訪れるのだが、新人ボランティアと勘違いした鹿野は美咲に一目惚れしてしまうのであった。
筋ジストロフィーを患いながらも夢を追い続けた男の生き様を通し、正直に生きることの難しさ・力強さを描いた作品だ。

五体満足で健康でいられる内は中々気が付けない
ケガをしたり風邪を引いたり熱が出た時でもない限り、身近に病気を抱えた人がいない限り、電車や街中でそういった人を目にしない限り、今作のような映画やドラマやドキュメンタリーにでも触れない限り、健康でいられることのありがたみなんて忘れてしまう
つい当たり前のことだと、普通のことだと思い込んでしまいがち
親の立場にでもならなければ、子どもが健康に生まれてきてくれることのありがたみだって実感しにくい

観た直後だから「健康でいられることに感謝」「しっかり生きなくちゃ」と思えるが、数日も経てばまた元の無自覚な自分に戻ってしまうのも目に見えている
個人差はあるだろうが、この感覚は保ち続けるのは難しい
そんな薄っぺらい自分がやんなっちゃうけれど、今この瞬間だけでも大切なことに気付かせてくれるこの作品に出会えて本当に良かった
鹿野靖明さんの人生が、彼を支え続けた人々の想いが、きっと多くの観客の胸を打つことになるだろう。

身体は不自由だけど、心が自由な鹿野
身体は自由だけど、心が不自由な田中や美咲
鹿野だけに焦点を当てて描いているわけではなく、健常者側の視点も織り交ぜられ、時に対比させながら描かれていく
あなたがどの立ち位置にいるのかは分からないが、群発頭痛を抱える以外は健康そのものであるぼくにとっては鹿野の心持ちにとても胸揺さぶられた
ぼくには欠けた強さが詰まっていた

1日1日が勝負だと思って生きているのと、明日やろう明後日やろうと思って生きているのとでは、当然出てくる言葉も違ってくる
前者のような心構えであるべきだと理屈では分かっていながらも、一度間違えたり痛い目に遭わないと大事なことには気が付けない人間だから中々行動には移せない
なまじ半端に逃げたり誤魔化したりする術があるものだから、向き合うことから目を背けてしまう
が、そんなんじゃダメなことも頭のどこかで分かっている
筋ジストロフィーなどの病気を抱えないと、退路を断たれ追い込まれないと人は強くなれないのか
そうじゃない
そうであってはならない
必要なのは、臆することなく挑戦し続けていく覚悟
何度も何度も間違えて、何度も何度も痛い目に遭っていく過程で得られる気付きにこそ、強さの種が宿っている
しかし、これまた理屈では分かっていながらも容易に実行には移せない
その覚悟を決めるまでが一苦労
ただ、そこへ至るためのヒントは描かれていたように思う。

ボランティアの存在が鹿野にとって生命線であるからこそ、他者と関わる際の彼の姿勢から見えてくるモノがある
それは“正直”であるということ
相手の顔色を伺ったり、多数決において多い方に属していたかったり、世間の常識やモラルに反する意見を述べるのを控えたり、日常生活においては己の心を殺してしまう場面が多々ある
誰だって想いのままに生きていたいが、心を殺した方が円滑に物事が運ぶことも知っている
殺し慣れてしまえば、やがて痛覚すら麻痺してくる
だが、何が自分の本意なのかを見誤るようになっていき、上っ面の人間関係しか築けなくなっていく

効率ばかりを重視した上辺の関係性では乗り越えられない壁がたくさんあるが、ブツかり合いながらも構築されていった信頼関係には永続的な強さが備わるもの
どうでも良い相手ならともかく、大切な人が相手なら、たとえ衝突してでも“正直”な想いを交わし合った方が良い
正直でいると嫌われる機会も増えるかもしれないが、ありのままの自分を受け入れてくれる人にだって巡り会えるかもしれない
中途半端に仮面を付けたままでは、どちらも見極められず状況は何一つ変わらない
上っ面の味方を百人得るよりも、たった一人でも絶対的な味方を得られる方が圧倒的に力強い
正直であるが故に、彼の周りには仲間がいた
それこそが彼の強さの根源であったのだと思う。

自分の想いを押し通そうとすれば、必ず何かしらの壁が立ち塞がる
壁をブチ破れるか否かは、想いに宿る覚悟の有無や質がものを言う
その覚悟を育むのは、自分自身の心持ちや他者との関係性
何のために、誰のために、何を成すために生きるのか
今の自分を見つめ直す良きキッカケを与えてくれる作品です

ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★★
エロ★
サスペンス★★★
ファンタジー★★
総合評価:B