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こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

4.3
北海道の医学生・田中(三浦春馬)がボランティアとして出会った筋ジストロフィーで体が不自由な鹿野(大泉洋)は、病院を飛び出し、自ら集めた大勢のボランティアや両親に支えられて、風変わりな自立生活を送っていた。
夜中に突然「バナナが食べたい!」と言い出すなど、いつも王様のようなワガママぶりだが、どこか憎めない愛される存在だった。
ある日、新人ボランティアの美咲(高畑充希)に惚れた鹿野は、彼女へのラブレターの代筆を田中に依頼する。
しかし、実は田中と美咲は付き合っていた。
奇妙な三角関係は、鹿野の主治医やベテランボランティアたちを巻き込んで大騒動に。
だが、鹿野の病状は徐々に悪化し、ますます体の自由が利かなくなっていく。
そんな鹿野には、生きているうちに叶えたい夢があった……。
北海道、札幌でボランティアの助けを借りながら自立生活を営んだ鹿野靖明氏の奮闘を描いたノンフィクションを元にした映画。
ボランティアに遠慮なく自分の欲求や要望を伝え王様のように振る舞う鹿野は、一見モンスター弱者のように見えるけど、筋ジストロフィーの影響で筋力が弱り心筋症の持病を抱えている鹿野にとっては、毎日が自分の欲求や夢を実現するための戦いの連続。
そんな自分の生き方が、身体障害者が生活や障害のために自分の意思や欲求を我慢せざるを得ない状況に風穴を開けたいという志、「もっと有名になってちやほやされたいモテたい」という下世話な欲求の両方を持つ鹿野の、見栄ややせ我慢がないオープンマインドな魅力を、田中の彼女の美咲の目線から描かれ、筋ジストロフィーの鹿野の世話を田中や美咲がする中で自分の中の余計な見栄ややせ我慢に気づいて成長していく姿を通して、「筋ジストロフィーで体は不自由でも心が自由奔放な鹿野」と「余計な見栄ややせ我慢に自分の意思を縛られている田中や美咲」を対称させることで、「自分に正直に生きるとは?」「幸せとは?」を見るものに考えさせる内容になっていて、筋ジストロフィーの身体障害者の闘病記にとどまらないヒューマンドラマになっている。
鹿野の意思や欲求に振り回されながら「しょうがないねえ」と鹿野の意思を実現するため奮闘するボランティアと自由奔放な鹿野の関係が、「男はつらいよ」の寅さんと寅屋のみんなのようで、「遠慮なく頼り合える世の中は、障害のあるなしに関係なくみんなが生きやすい世の中」と思えるヒューマンコメディ映画。
飄々としていて一見わがままだけどつまらない見栄がないオープンマインドな鹿野に大泉洋がはまっているし、ボランティアのキャストも良かった。ただ鹿野靖明氏が、身体障害者の自宅生活用のケア付き住宅建設運動に大きい役割を果たすなどの実績が本編で描かれなかったり、鹿野ボランティアのドラマが浅くなったのは、残念。
福祉の世界に馴染みのない人に、障害者の自立生活について考えてもらうには、ちょうど良かったヒューマンコメディ映画。
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