しの

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話のしののレビュー・感想・評価

3.7
障害者も健常者も同じ人間だ、という当たり前の事実だけでなく、互いに人として接し、与え合う営みの普遍的な尊さを実感させてくれる。演技が大仰だとか、やたらウェットにするとか、そういう邦画難病モノへの偏見をある程度払拭してくれる一作でもある。

まず役者が魅力的。大泉洋は絶対的な中心人物である鹿野を「人間」として魅力的に演じており、呼吸器の影響でどもる話し方などディテールも素晴らしい。また、高畑充希と三浦春馬はいい塩梅に抑制の効いた生っぽい反応の演技が非常にリアル。終始この三人が中心なので、安心して観られる。

次に内容に関して。難病というのは大きな要素だが、主題はコミュニケーションや共生のあり方だと思う。実際、「障害者が生きやすい社会は、誰もが生きやすい社会」という話が出てくる。要は、バリアフリーというよりユニバーサルデザインの考え方だ。だから、湿っぽくなりそうになるとグッと陽性に揺り戻す。そこに主眼はないからだ。

この「主題」には気を付けないといけない。というのも、本作は障がい者やボランティアの実情に深く切り込む話ではなく、むしろそこに関しては主人公が鹿野であるからこそ成り立つものになっているからだ。要は「与え合う」関係性を前提にしているのだが、ただこれは先述の「主題」を考えれば妥当だし、一方で実話だからこそ強度が出る話でもある。その人が魅力的だから一緒にいたいという気持ちは、身体の事情に関係ない。それこそがユニバーサルデザイン社会の礎なのだ。

ただ、邦画としての改善点もある。まず、主役の演技が魅力的な一方で、脇の方で棒読み演技やあざとい演技がある。ただ、これは演出として好意的に捉えることもできなくはない。一方、画面がリッチでないことや、これと相まって音楽の使い方がやや安っぽいことは依然として課題だろう。あと、「外し」展開を2回やったり、そもそも全体的な展開にメリハリが無かったりするので、内容に反して軽快な楽しさは薄かった。
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