ブタブタ

機動戦士ガンダムNTのブタブタのレビュー・感想・評価

機動戦士ガンダムNT(2018年製作の映画)
4.5
ガンダムUCがファーストガンダムなら今回のガンダムNTはZガンダムだった。
兎に角展開が早いし色々端折ってるのでワンクール分のアニメのダイジェストみたいだったけど、その分凄い濃密だったと言うことで。
ゾルタンはすごくいい悪役だった。
絶対に主人公側に迎合しない最後迄悪のアンチヒーロー、ダークヒーロー。
ランバ・ラルみたいな「いい敵役」ではなくてヤザン、ジェリドの系譜のキャラクターで滅びゆくオールドタイプの、万物の霊長の座をニュータイプに譲り渡す運命を或る意味達観しながら最後の最後まで足掻きに足掻く断末魔みたいな物を体現したキャラクターだった。
「赤い彗星の紛い物」「出来損ない」呼ばわりされて、正にそこからの「でもやるんだよ!」の負け犬の意地、窮鼠猫を噛む、もうワルモノはこうでなくちゃな大活躍だった。
ヒャッハー!なルックスとキャラクター造形から、単なる後でやられる役目のみのクリシェに堕してしまうのではと見る前は不安でしたが、全然そんな事はなかった。
自分が小物だと充分自覚してて、どう頑張った所でシャアやフロンタルにはなれない、邪悪さや醜さや歪んだ強さと、その狂気も何処か道化を演じてる様で、そしてそこから来る脆さや哀しさ。
ねじ曲がってしまった性根は最後迄治る事はなく、それでいてⅡネオジオングで地球を滅ぼしかける大活躍。

ヒグチユウコ・作の絵本『いらないねこ』はヌイグルミの「ニャンコ」が身勝手な人間に捨てられた仔猫を拾い一生懸命育てるお話し何ですがガンダムNTは冒頭、ガンダム世界の根幹であるスペースコロニーへの「宇宙棄民政策」についてのテロップが出るのですが、
ゾルタンの「たかが100年位で進化出来るか!」のセリフ。
地球から宇宙へと追いやられた人々の中でニュータイプへと進化出来るのはほんの一握りであり、その他の殆どのスペースノイドは「棄てられたまま」であり、フル・フロンタルがそのスペースノイドの独立・権利・主権獲得及びジオ二ズム思想による革命や独立戦争が目的だったのに対しゾルタンはただひたすら棄てられた人々の「怒り」を体現したようなキャラクターで正に身勝手な人間の巨大な集合体である連邦政府に対して最後はたった一人で牙を向いたニャンコの様でその姿は感動的であり完全に「やっちまえー!」と心の中で声援を送ってました。
奇跡の子供達の3人と共にゾルタンが4人目として登場した時は思わず涙が出ました。
この世界にいらない子なんていない!と。

~ニュータイプ神話のその先へ~
TVアニメ『機動戦士ガンダム』は43話で打切りとなり、幻となった(本来の)37話~52話はトミノメモとして見る事が出来るのですが当時「ニュータイプとは何か」という問題が分からないまま作ってて、そのまま最終話迄行ったら中途半端なエスパー物で終わってガンダムはこんなに続かなかったと後年、富野由悠季監督は語ってました。
この「幻のガンダムの結末」が『ガンダムUC』『オリジン』『ガンダムNT』など近年の「宇宙世紀の焼き直し・リブート・商業主義・バンダイ主導の兎に角プラモデルを売れ!」を繰り返した結果、はからずも40年かかって富野由悠季監督が描けなかった「ファーストガンダムの真の結末」に辿り着こうとしてるのではないでしょうか?

ガンダム四大黒歴史の一つ『閃光のハサウェイ』のアニメ化も決定されましたが、四大黒歴史の中でもぶっちぎりの黒歴史『フォー・ザ・バレル』は富野由悠季小説版ガンダムを原作としファーストガンダムの「再構築」を目指した作品だったのですが、これも途中打切り未単行本化と残念な結果に終わりました。
リン・アバオ(アムロに当たるキャラ)の死から始まるストーリーで、トミノメモにある未登場キャラクターも多数登場し、アムロを殺した男ルロイ・ギリアムやブライトと恋仲になるエルメス二号機パイロット、クスコ・アルや半エスパー・バッカデリア等々、その斬新なキャラクター・メカニックデザインにアニメでは描けなかったファーストガンダムの結末と人類のニュータイプへの進化と覚醒迄も描くかと期待してたのですが打切り終了でした。

このフォー・ザ・バレルには宇宙世紀の三大発明として宇宙都市スペースコロニー・マシニングスキン(モビルスーツ)・そして次元を超える為の粒子加速器(ワープ装置?)オーラロードという設定が出て来て、死んだリン・アバオの魂はバイストン・ウェルに転生するのですが、今回のNTで繰り返し提示される魂の行方や転生に関すること。
今、人類はニュータイプへの進化の入り口の前まで来ていて、ユニコーンガンダムは魂の器であり、その入り口である門?
~バレルではニュータイプの行き着く先として時間や空間、次元を超えた世界、そこには「バイストン・ウェル」も含まれるのではという事が示唆されて、結局その全貌はあきらかにはなりませんでしたけど、宇宙世紀のガンダムはこれからも延々と作られ続けるでしょうし、今回のNTは宇宙世紀の次の100年の始まりとのコンセプトでもあり、見る事が叶わなかった幻のファーストガンダムの結末のリブートが40年かかって形を変えてもしかしたら新作ガンダムで見られるのかもと期待してます。
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