MasaichiYaguchi

初恋~お父さん、チビがいなくなりましたのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
西炯子さんの人気漫画を倍賞千恵子さんと藤竜也さんのW主演で小林聖太郎監督が映画化した本作を熟年夫婦が鑑賞した場合、妻は頷きながら共感し、夫は冷や汗をかきながら苦笑いしているのではないかと思う。
結婚して50年も経つと、「お前百までわしゃ九十九まで、ともに白髪の生えるまで」と添い遂げる夫婦が多いように思えるが、本作の武井夫婦のように妻の有喜子が「呼んでも返事をしない」、「会話もない」、「旅行にでも行きたいわー」とか言ってるのに夫の勝の方は生返事しかしないといった、倦怠期というのとはちょっと違うが、なんとなくしっくりいっていない夫婦生活にある寂しさから段々溝が広がって、ちょっとした切っ掛けで危機を迎えることは充分有り得ると思う。
恐らく夫の勝は私より一回り年上の団塊の世代だと思うが、サラリーマンとして定年後も相談役になっているぐらいだから一角の人物なのだろう。
会社でも出世して役員になったぐらいだから、家でも亭主関白でぶっきらぼうな老人になっているのだが、この手のお爺ちゃんは街中だけでなく、自分の周囲にもいそうな気がする。
これら団塊の世代をはじめとして私たち中高年男性は、「阿吽の呼吸」というか「言わずもがな」というか、相手が自分の気持ちを察しているものと思いがちだ。
昨年「忖度」が流行語となったが、相手に対する独り善がりの配慮は時として相手を傷付けたり、心を踏みにじることに成りかねない。
愛猫の「チビ」の失踪を発端に訪れた武井夫婦の危機は、その子供たちを巻き込んで「お家騒動」となっていく。
果たして「チビ」の行方や安否は、そして武井夫婦は人生の終盤でどのような結論を下すのか。
この作品を観ると、「釣った魚に餌はやらない」的な考えをする日本人男性は多いと思うが、離婚率が5割以上といわれるアメリカでさえ、離婚しなかった5割弱の夫婦は、記念日のお祝い事や愛情を言葉や行動に出してそれなりに努力をしている。
私も含め人生の終盤において恙無い夫婦生活を送ろうと考えている人は、やはり今までの過ごし方ではなく、パートナーの気持ちに寄り添うように考え、行動していかなければと思います。