にしやん

引っ越し大名!のにしやんのレビュー・感想・評価

引っ越し大名!(2019年製作の映画)
3.7
江戸時代の大名にとっての一大事業「国替え(=お引っ越し)」をテーマに描いた時代劇や。生涯で7回も国替えを繰り返した松平直矩っちゅう実在の人物がモデルになってるみたいやな。予告編を観る限り、国替えをネタにした軽いタッチのハウツーコメディもんやと思て鑑賞したわ。星野源が主演やし間違いなく笑わかしてくれるんやろなと。

ところがやな、映画始まって全体の8割はお引っ越しのハウツーもんとしてドタバタのコメディタッチで展開すんねんけど、笑えるところが殆どあれへん。脚本、演出ともに喜劇としての完成度が低いんとちゃうかな。笑いのセンスが足らんちゅうか、ちょっと古臭いかもな。ボケとツッコミにしても、コテコテの昭和全開や。スピード感もないし、ギャグにもキレがあれへんわ。スベりそうになるとガヤの笑い声でごまかしたりするなんぞ、「ドリフの大爆笑」とちゃうねんから。引っ越しという難題にどう立ち向かうかという展開の仕方はそこそこ上手いのにコメディとしては完全にはずしてるわ。

そんな塩梅で、前半から中盤にかけてのコメディ展開はアカン日本映画の典型みたいな感じで進むねんけど、後半から終盤にかけての肝心の引っ越しが終わってからの展開が、これがまあ、めちゃめちゃようできててビックリやったわ。転換点は藩士のリストラのあたりからや。侍以外の生き方なんか微塵も考えたことのあれへんリストラ侍たちの悲しみは、今を生きるサラリーマンとしても正直身につまされるな。

この映画やけど、要するに大名の引っ越しって大変やなあという話やなく、侍として生きることの悲哀を描いた作品やっちゅうこっちゃ。いかにもコメディですみたいなタイトルとは全然違て、こんなにエライ引っ越しを上から言われて何べんも何べんもやらなあかんかった侍社会のブラックさやったんやなと。

終盤からラストの演出はとにかく見事や。リストラを言い渡されるもんの悲しみや、それを直接伝えなあかんもんの苦しみが痛いほど伝わってくる。ラストシーンも、ある程度予想はできるけど、しっかりと丁寧に描かれてるもんやから、ジーンとくるわ。まとめ方があまりにもうますぎるな。後から思い返すと、笑いがいまいち足りん前半から中盤にかけてのドタバタした引っ越し展開が全体としての伏線なってて、映画で一番やりたかったんは引っ越し終わってからのこれやったんかいな。そない考えたら予告編とかCMのコメディみたいな宣伝ってどうなんやろな。もっと正統派のヒューマンドラマとして宣伝すればよかったんちゃうかな。

全体としては、映画始まってから8割くらいのコメディ部分はスベリまくりで全く退屈以外の何もんでもなかったけど、残りの2割で何とか巻き返してくれたってとこやな。コメディがもっと巧かったらかなりの傑作やったかもしれんわ。終盤以降の出来がとにかくええさかい、ちょっともったいない映画やったな。それでも全体としては平均点はちゃんと出してるし、この手の時代劇としては充分やろ。正直あんまり期待してへんかっただけに、そこそこ良かったんとちゃうか?
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