ノラネコの呑んで観るシネマ

⼗年 Ten Years Japanのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

⼗年 Ten Years Japan(2018年製作の映画)
4.1
是枝裕和製作総指揮の、今から十年後の日本を描く5話オムニバス。
2015年の香港映画「十年」のコンセプトを元に、アジア各国が自国を舞台にしてそれぞれの十年後を描く企画の日本版。
早川千絵監督の「PLAN75」は、若い役人を主人公に、75歳以上の高齢者へ安楽死が推奨される未来を描く。
彼は仕事として“死”を勧めながら、75歳になった認知症の義母を安楽死させることには葛藤を募らせる。
某議員の暴言などを聞くと、これは絵空事ではない。
木下雄介監督「いたずら同盟」に描かれるのは、超お節介なAIが子供たちの行動や進路までを支配する学校の日常。
管理に反発する主人公の少年と仲間たちの、ささやかな反乱を描く。
HAL9000オマージュのAIと学校で飼われている馬が、子供たちの対照的な“友達”を形作る。
津野愛監督の「DATA」は、杉咲花演じる主人公が、クラウド化された亡き母の人生の記録から、ある秘密を見つけ出してしまう。
これは十年ごと言わず、現在でも十分にあり得る話で、とりあえず人に見られたら誤解を招きそうなデータはこまめに消しときましょうw
藤村知世監督の「その空気は見えない」は、原発事故が起こり人々が地下シェルターで生き延びる未来。
暗闇の世界に生まれ育った少女たちは、見たことのない太陽や雨に憧れを募らせる。
アニメーションで表現される、少女たちのイマジネーションの世界が切ない。
石川慶監督の「美しい国」は、広告代理店で、徴兵制の必要性を訴えるポスターの担当者が主人公。
契約打ち切りを伝えるため、デザイナーの家を訪れた彼は、彼女がポスターに込めた本当の意図を知る。
タイトルとか色々政権に喧嘩売ってるが、ラストが秀逸。
色々ガッカリさせられることも多いオムニバスものだが、本作の五本は出来不出来はあるにしても、それぞれ短編として一定のクオリティには達しているのではないか。
現在に直結という意味では、第1話と第5話がリアリティを感じてゾクッときた。
全体的にユートピアではなく、ディストピア的世界観なのはやはり時代の空気か。
驚いたのは、オムニバス映画には珍しく作品ごとにアスペクト比が異なるのだが、テアトル新宿が毎回マスキング調整していたこと。
そもそもマスキング設備すらない今時のシネコンでは、こうはいかない。
作品ごとにベストな上映をするという、映画館の矜持を感じた。