岡田拓朗

⼗年 Ten Years Japanの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

⼗年 Ten Years Japan(2018年製作の映画)
3.8
十年 Ten Years Japan

未来とは、今を生きること

是枝裕和監督総合監修の国際共同プロジェクト。
日本の10年後の社会や人間を、5名の新鋭監督たちが描く。

高齢化問題、AIの発達から生まれるAI教育、デジタル社会が遺し続けるデジタル遺産(データ)、原発問題、(自衛隊の人材不足から想定される)徴兵制。
いずれも切り込んでいる社会問題に切れ味がある。
下記、それぞれの作品を簡単にレビュー。


#PLAN75
75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する制度「PLAN75」ができる。
将来においてさらなる高齢化が進み、養わないといけない人たちを養い切れない可能性がある中で、命や人としての尊厳、生と死をどう定義づけるか、何で定義づけるか、から議論が始まるかもしれない。

命を救うためにあったカウンセリングが、死を選ばせるためにも用いられることになるのは怖いが、その人が望むのであれば、生きていく希望も労力もないのであれば、それも一つの選択として受け入れられてもおかしくはないと感じてしまわざるを得ない描写が観ていて辛かった。

人の命はさらに選別されていく時代に突入するかもしれない怖さ。
でもこれは、最大限その人側の意見が尊重されるべきであることが重要であると思う。


#いたずら同盟
AIにより理想の道徳を刷り込まれるIT特区ができたらどうなるか。
埋め込まれたチップにより、自分の将来を半ば強制的に最適配置されるように誘導され、必ずしも正しいかどうか定かではない決められた道徳を押しつけられるのはさすがによくないであろう。

いわゆる言うことを聞くことが正義になる世界は怖い。洗脳でしかない。

殺処分されることとなった馬を助けに行くシーンは、道徳的にアウトとされていたが、最後に理想の道徳がアップデートされていた。

これは要するに、誰かがはみ出して行動を起こさないと理想の道徳がアップデートされずに、理想という名の都合のよい道徳を押しつけられることが示されており、危険であると感じた。
そんな世界は真っ平御免である。


#DATA
データが遺産として残り続けて知らないでいいことも知ってしまわざるを得ないことは、本当に幸せであるのかどうか。

気になると調べたことにより、親に対して疑心暗鬼を持たざるを得なくなるが、知らない方が幸せなことは世の中にたくさんある。

何でもかんでも保存されて知ることができたらよいと言うものでもない。


#その空気は見えない
原発による放射線での大気汚染から逃れるために地下に住む人たちの物語。

そもそも原発により住む世界すらも変えられ兼ねないことまで考えたことはなかった。
しかもそこで地下に住むという発想も全くナンセンスではないと、まずは設定に驚かされた。

今自分たちは地上で太陽を浴びながら、ときに雨に打たれながら生きることが当たり前であるが、全くそれができずに無機質で暗い地下でずっと暮らさないといけなくなったと想像したらどうだろうか。

今作のように間違いなく知らない希望のイメージがある地上に想いを馳せてしまうだろう。

原発はそれほど世界を変え得るものであることが、よくイメージできる作品であった。


#美しい国
自衛隊徴兵制が日本で導入されることになる。
技術は進歩するし、どんどん頭はよくなり、世の中は便利になっていくのに、肝心な部分は成長せずに、誤ちを繰り返し続ける。

殺し合うことは動物の性なのか。
止めることはできないのか。

戦争はときに(軍需)ビジネスに、政治に、使われて国も技術も発展していくがその恩恵を受けるのは一握りではないか。
それしか本当に手段はないのか。

人として生きる上での大切なことを蔑ろにしてまでもなお、あらゆる発展や誰かの利益のために人が殺し合うことに本当に意味があるのか、考え直すべきときかもしれない。

自衛隊を志願する人が減って、人手不足となり徴兵制ができないこともない気がするのが怖い。
そんな自分も道端で自衛隊に誘われたことがあるから、かなり現実味があり目を背けられない内容だった。

あくまで決定を下す側の行政は、客観的なのである。
自らが行くわけではない徴兵制に対し、あくまで客観的な視点から見た温度感の低さが、より作品に奥行きを作っているように見えた。
主演を太賀にしたのが活きてる。
あのラストを描くことの意義深さ。何ハッとなってるんだよっていう。


未来とは今の積み重ねであり、今を生きることの延長線上にできあがるものである。
このままだと無視できない問題に発展するかもしれないリアリティのある日本の10年後が、それぞれの視点から短編映画としてスクリーンに映し出されていた。
起こり得そうな問題だらけなのが怖かった。

未来を投影されることで、今をどう生きるか、を考えるきっかけにもなる。
それがキャッチコピーである「未来は、今を生きること」にも繋がっている。
意義のある取り組みだなーと思った。

P.S.
DATAで出てきた醤油ラーメンがめっちゃ美味しそうで、夜は醤油ラーメンを食べました。笑
こういう日々の積み重ねでも、十分に幸せだと思うのにね。
岡田拓朗

岡田拓朗