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私は、クロード・モネのろのレビュー・感想・評価

私は、クロード・モネ(2017年製作の映画)
5.0

光が世界に満ちる、その一瞬をとらえた画家クロード・モネ


二年前の冬、京都でモネの絵をみました。
印象派というくくりではなく、“モネの”展覧会ははじめて。
朝一番、重厚な門の前に並んでいると
「おめでとうございます、10万人目のお客様です!」
天窓から降り注ぐ柔らかい光は会場の入り口を照らし、その中で行われたセレモニーに母と参加しました。
館長さんから手渡されたのは、この展覧会の目玉「チュイルリー公園」、そして「印象 日の出」の複製画。(わたし、いま、モネの絵を持ってる!)抑えきれない興奮と夢みたいな信じられない気持ち。うれしくてたまりませんでした。
けれどちょうどうつ病になりたてだったその頃。喜びとともに尋常じゃないほどの緊張と不安が押し寄せて。
でも、最期まで光を追い続けたモネだからこそ、わたしの心に光を灯してくれたんだと感じて、とても励まされたんです。



どこかの港町で大きな船が往来する風景、スクリーンいっぱいに広がる。
空も海も濃紫色に包まれている、もうすぐ夜だ。
そこに真っ赤な太陽が強烈な光を放って、水面にスッとのびている。
映画が進むとまた同じ光景が映し出されて、ゆっくりとモネの絵が重なり浮かびあがった。そう、これは「印象 日の出」。
こんなふうにね、モネが描いた景色と現在の風景を、同じ季節・時間帯・構図で見せてくれる。それでびっくりするのは、フランスの今とモネが生きた時代であまり変わっていないってこと。フランスは京都みたいに景観を守っているでしょう。それがこの映画からも見てとれる。すごいことだよ。
「この美しさをキャンバスにとどめたい、けれど筆が追いつかない」とモネをじれったくさせた風景が変わらず残っているんだよ。モネが見たらびっくりするんじゃないかな。


わたしね、小さい頃からジヴェルニーの話をきいていたの。
白と緑のこぢんまりとした家。
モネが作った庭は年中花が咲き乱れ、睡蓮の花、しだれ柳、その先に太鼓橋がかかっている。
そんな美しいところに住んでいるなんて、モネって裕福だと思っていたの。
でも違った。
油絵具が買えないほど、家族が飢えるほど困窮していた。
パトロンもいない、評価もされない。そんな中で魂を削るように描き続けた人だった。
特に貧困の中で最愛の妻カミーユを亡くし、その死をきっかけに再び筆を取るエピソードには言葉を失ってしまいます。
でもねちょうどそのころ、「助けてくれ!」とSOSの手紙を出していたアルジャントゥイユ時代の絵を見ると、ひもじさのカケラもないの。むしろ優雅でやすらぎさえ感じる。精神的にギリギリだったはずなのに、まったく殺伐としていない、本当に不思議だよ。


晩年、モネは白内障を患ったのだけれど、そのときに自宅の太鼓橋を何枚も描いているの。
冒頭に記した展覧会でね、この太鼓橋の絵が6枚並んで飾られていた。わたしは泣きそうになってしまいました。どの絵も“空から色が降ってきた!”と感じてしまうほど素晴らしくって。この日は10万人目ということで、特別に再入場させていただいたのだけれど、やっぱりこの連作の前で立ち尽くしてしまいました。
その中の1枚がこの映画でちらと映ってね、あのときの感動が蘇るようでしたよ。


カリカチュアから才能を見出してくれたブーダン
印象派の父・マネ、みんなのおじいちゃんピサロ
経済的な支援をしてくれたゴーギャン
そしてモネとの親交が深いルノワール
モネの手紙がナレーションで読み上げられるだけなのに、それぞれの画家が生き生きと、まるで昨日も今日も明日もおしゃべりする友人のように感じられて、とてもうれしかったです。




なにかにチャレンジしてみたけれど、心が折れそうだもうダメだってくじけそうになったとき、またモネの情熱に触れに戻ってきます。
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