いくらサーモン生ハム

マックイーン:モードの反逆児のいくらサーモン生ハムのレビュー・感想・評価

3.5
まず、ドキュメンタリーとしてわかりやすかったし飽きなくてよくできていたと思う。
なんか音楽が最初から妙に存在感あるなと思ったらそういやマイケルナイマンでした。派手だね。

結局この映画も、マックイーンの個性だけではなく社会の問題を浮かび上がらせていると解釈している。
結局アレキサンダー・マックイーンというブランドは、たまたま金持ちに面白く映ったワーキングクラスの1人の若者を性急に消費しただけなんじゃないか?

ショーをやってるデザイナーが生地を失業手当で買ったとか、スタッフがタダ働きとか、美談で済ませてはいけないと思う。ただのブラック企業だろう。ファッション業界はブラック覚悟で飛び込むか、相当に余裕のある人間しかやっていくことができないのか。ファッションに限らず、多くの創造的な仕事に言えることだが。

1年に10もショーをやるのも結局働きすぎで、マックイーンはそれで薬物にも手を出したし、追い詰められていった。そこでデザイナーを誰も助けない。ショーを減らすことができない、ファッション業界の人権軽視の面が伺える気がした。

なお、芸術がそんなに高尚なものと思っているわけではないが、私はファッションは芸術ではないという立場で、舞台芸術じみたファッションショー(及びそうした点を賛美する姿勢)は苦手である。作りたい服を作るというのもあるにせよ、ショーは金持ちを喜ばせて金を出させるのが第一義だろうと思っているので、何をやっていても白けてしまうところがある。だから演出は抑制的な方が見ていてほっとする。まあショーをやったことはないから実際の気分は分からないけど。

マックイーンはやっぱりワーキングクラス出身であるがゆえに資本主義の富裕層とうまくつきあって、富裕層の生活をうまくやっていくということができなかったから死んじゃったんじゃないかなと思う。もたなかった。結局人間そんなに変われないよ。だから貧富の差や不公平はできるだけ小さくしていかなければ、善意で人がどんどん殺されていくだけなんじゃないかなと思う。豊かな人間の欲のために。