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沖縄スパイ戦史のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

沖縄スパイ戦史(2018年製作の映画)
5.0
          陸軍中野学校の原罪

中野学校卒業生は教員になりすましたり、民間人を利用する秘密裏の作戦遂行のために隊長として赴任し、10代半ばの少年兵(護郷隊)を編成。村人から信頼を得る「人たらし」であった。しかし、民間人同士で監視させ、足手纏いの老人や女性子どもはマラリアが蔓延する島や地域に押し込め(波照間島の島民の3割が死亡)、民間人同士が互いをスパイだと疑心暗鬼になり密告、殺害し合う地獄を生み出すきっかけを作った。

ドキュメンタリーとしての厚み重み深みは、これ以上ないほど。入念な取材で裏付けされている。監督は毎日放送、琉球朝日放送の元アナウンサーで現在はジャーナリストの三上智恵。戦争映画、とくにドキュメンタリーにはスコアつけないことが多いのですが、これはぜひ観てもらいたい作品であり、これだけの濃厚なドキュメンタリーは貴重なので満点つけました。

2018年、ようやく口を開いて語ってくれた人たち。村人同士が互いにスパイではないかと監視しあい、自分は助かりたいために、人を密告。密告した人たちは最近まで存命だった。事実を知っていても語れなかった長い戦後。また、米軍に殺されたら補償は出るが、日本軍や民間人に殺されても補償が出なかった背景もある。

スパイと言ってもいわゆる本当のスパイではない。スパイと言われた人は軍に協力して、秘密基地に食品を運んだり提供したりした民間人であり、戦前に留学等で外国語を習得していた人たち等も含み、万が一米軍に捕まったら、(陸軍中野学校卒業生とは違って)拷問されたら基地の場所や作戦などを白状してしまうのではないかと疑われた。その疑心暗鬼と恐怖は当然、陸軍の兵にも広がっていた。

島人は本土人より民度が低く信用できないので、うまく利用はするが足手纏いになったらうまく始末すると、記録が残っていた。

恐ろしく冷徹であり、国を守る(国体護持)ことが任務で、民を守ることは任務ではなかった。これは陸軍中野学校の思想であり、教書として残っている。

語れる人たちもまた高齢であるが、PTSDに悩まされ、戦場にいると思い込み、突然ほふく前進したり、パニックになる発作を長いこと抱えていた高齢者もいた。まだ15歳の少年が体験するには想像を超える酷な体験。米軍を森で見かけ、恐怖のあまり失神するほどのまだ幼い子どもたち。その子どもたちも日々の死にマヒしていく。足手纏いになると殺された。

先に市川雷蔵主演の「陸軍中野学校」を観ておいてよかった。どれだけ彼らが冷徹さを身につけ、それも洗脳によっていたかがわかったから。自身が身につけた洗脳法を良かれと思い、自身も再現していく。最初は熱く語る親しみやすい素敵な兄貴として少年達の前に登場。しかし、裏切り者は私刑にさせるように追い込む。自分がスパイだから、世の中の人を疑うことしかできなくなっていた。彼ら自身がスパイであったことが招いた地獄だった。スパイという原罪。

米軍が撮った少年兵や民間人の虐殺のカラー写真や動画が数多くあり、閲覧注意です(でも見ました😢)。埋葬する場所がなく、浜辺に何十という数のご遺体が放置されていました😢。

陸軍中野学校卒業生は、敗戦後、特別のお咎め無しで、経営者になったりしています。でも、波照間島ではその軍曹の名前を戦争マラリアの慰霊碑に刻みこみ、この男の指示でマラリアで島民が多数亡くなったことを忘れないように遺しています。

少年兵の憧れの的だった二人の隊長は、陸軍中野学校らしく、誠を尽くし、戦後、すべての少年兵の家に謝罪に行き、生き残った子どもたちには就職斡旋していますが、許せない家族も当然います。

最後に、現代の(自衛隊の)基地問題に触れていました。基地は島民、国民を守らない。守るのは基地と国(土)。自衛隊の規則も陸軍中野学校の教書と変わりなく、住民利用と協力可能な物の収用可であること。基地があれば真っ先に狙われると。

長文失礼しました。
これだけの充実したドキュメンタリーは貴重だと思います。

陸軍参謀より恐ろしい中野学校。

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