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アラジンのokomeのレビュー・感想・評価

アラジン(2019年製作の映画)
4.5
「アリ王子がドアの前までやってきた」
「でも、開けるのはアラジン、君なんだよ」


午前10時の映画祭も終わってしまう今、どんな形であれ過去の名作が改めて注目されるのはとても良い事だと思います。
しかし、それを踏まえても最近のディズニーの、アニメーションの実写リメイクには正直首を傾げてしまうところが多々ありました。
もう一度物語を語る意義、と言えば聞こえは良いけれど、要は元の作品を現代の価値観に落とし込む事に固執し過ぎていていたように感じるのです。

具体的には、「白人至上主義はやめよう」、「女性の活躍を認めよう」、「多様性を大事にしよう」と言ったポリティカル・コネクトネス。
その煽り方があまりにも露骨で、ちょっとプロパガンダめいた雰囲気も感じてしまう。
そのくせ、肝心の作品内での描き方は時代考証を全く無視して場違いな黒人の役者を配置するだけだったり、ただバカにされる為だけに男性キャラクターを登場させてみたり、結局は王子様と結ばれてめでたしめでたし以上の展開が無かったりと、極めて表層的でお粗末なもの。
作品を作りたいというよりも、ポリコレに「配慮している」という姿勢を宣伝したいだけなんじゃないかと邪推してしまって、正直結構嫌な気分にさせられるものばかりでした。


でも! でも!!
今作『アラジン』は意外にもすごく良かった!
やってる事は相変わらず配慮配慮アンド配慮なんですが、何だか全編通してとってもパワフルで爽やかで、チラチラ世間の目を伺うような卑屈な嫌らしさは全然感じられませんでした。
むしろその配慮がオリジナル版の物語を分かりやすく噛み砕き、更に一段階深く掘り下げる事にも貢献していたように思います。

特に重点を置いて描かれるのは「多様性」というテーマですが、今作に於いてそれは〝a whole new world〟という言葉で表現されます。
視野を広げ、新しい価値観を見せてくれる魅力的な世界。しかしそれを認知するためには、何よりもまず自分自身が今、どういう価値観を持っているのかを知らなければなりません。
自分を見つめ直し、より良い場所に飛躍するため本当に必要なものは何なのか。それを見極め、心が望むまま正直に生きられるよう努力する。
そうして初めて、新しい世界=他人の価値観を受け入れる事が出来るのです。
その資質を持つ者こそが「ダイヤの原石」であり、「変えられるのは上辺だけ」というジーニーの魔法は原石が乗り越えるべき試練の延長に他ならない。

個人的にとてもグッときたのは、マーワン・ケンザリ演じるジャファーでした。
オリジナル版では狡猾を絵に描いたような老人だった彼が、今作では野心に燃える精悍な男性として描かれます。加えて、カーストの最底辺から現在の地位までのし上がったという出自についても言及されており、それが今なお抱える鬱屈した劣等感の原因になっているという人間臭さが、自分にはとても愛おしく感じられました。
出自、年齢、劣等感に端を成す力への憧れ。
そして、ひとつ目の願いで叶えるその望みの内容に至るまで、彼は完全にアラジンと表裏一体の関係にあると想像に難くありません。
だからこそ、自分を今いる場所に縛り付けてしまう卑近な考え、目先の財宝に惑わされてはならないという教訓が真に迫って響くのです。

そして、誰もが評価するところだと思いますが、それを諭して聞かせるジーニー。彼を演じたウィル・スミスがとにかく素晴らしい。
本来とてもアクの強いキャラクターであるにも関わらず、決して他の演者を食ってしまう事なく上手く調和してみせる、一歩引いた絶妙な大人の演技。
他のメインキャストが総じて新進気鋭の若手なのも相まって、まるで彼らを優しく見守っているようです。そこから滲み出るウィル自身の人柄の良さが、ジーニーも「ランプの魔人」である以前に一人のれっきとした人間である事に気付かせてくれます。

彼は800年もの間、一体何度自分を呼び出した主人に対して〝your best friend〟と言ったんだろう。
そこにはどんな想いが込められていたんだろう。
そんな事をつい想像させられてしまう。
だから、彼がアラジンから自由をもらうラストシーンは、結末を知っているはずなのに涙が止まりませんでした。その感動はオリジナル版すら凌駕していたと思います。
ズルいとすら思いました。CMで色違いのウィルが出てきた時は出オチにしか見えなかったのに!


とにかく、ようやく意義のあるリメイクに出会えたという気分です。再始動(リブート)と言っても良いかもしれない。
今後もアニメーションの名作がたくさん実写化されるだろうと思いますが、是非今作のような真摯に物語と向き合った作品となる事を願います。

ポリコレの呪縛から自由を!