Inagaquilala

ハナレイ・ベイのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ハナレイ・ベイ(2018年製作の映画)
3.5
村上春樹作品の映像化は、なかなか難しいと言われている。これまでの映像化作品で記憶に残るのは、彼のデビュー作を大森一樹監督が映画化した「風の歌を聴け」(1981年)、同名の短編を市川準監督がメガホンを取った「トニー滝谷」(2005年)、そして、トラン・アン・ユン監督で、鳴り物入りで映画化された「ノルウェイの森」(2010年)の3作品だ。長編作品としては、この他にアメリカでつくられた「神の子どもたちはみな踊る」(2010年)などがあるが、いずれにしろ、30年近く小説を発表し続けているのに、映画化作品は少ない。この作品は、ひさしぶりに公開された村上作品の長編映画だ。

短編小説集「東京奇譚集」に収録された同名小説の映画化だが、短編の映画化ということもあり、ストーリーは淡々としている。むしろ雰囲気と人間関係の妙を味わう作品なのかもしれない。ハワイのカウアイ島にあるハナレイ・ベイで亡くなった息子を偲び、毎年、その場所を訪れて、海を眺めている女性が主人公なのだが、そもそも「東京奇譚集」の一編として発表された小説なので、少し非日常的な場面もある。それをどのようにして描くかが、その作品の成否だとは思うが、静かな流れのなかで、とりあえず作品は成り立っていたような気がする。

主人公の女性を演じる吉田羊が妙に村上春樹の世界にマッチしており、彼女のシーンだけは、悪くはない。結論としては、やはり村上作品の映画化は難しいのではということになるが、来春、「納屋を焼く」などを原作にした「バーニング」というイ・チャンドン監督の作品が公開されるようで、こちらも期待したい。
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