櫻イミト

ゼイ・ウォント・フォーゲットの櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
マーヴィン・ルロイ監督による社会派映画の隠れた傑作。被疑者が暴徒によりリンチ殺害されたレオ・フランク事件(1913)を基に、アメリカの南北対立と偏見の要素を加えて脚色。脚本は後に「オール・ザ・キングスメン」(1949)などを監督するロバート・ロッセン。ラナ・ターナー(当時16歳)の映画デビュー作。

アメリカ南部の町フロドゥン。南軍記念日のパレードで賑わう中、ビジネス・スクールの校舎で女学生メアリー(ラナ・ターナー)の死体が発見された。容疑者として校舎にいた黒人の用務員タンプが連行される。一方、野心家の地方検事グリフィン(クロード・レインズ)は、被害者メアリーが北部出身の教師ヘイル(エドワード・ノリス)に好意を持っていたとの情報を耳にし、直ちに彼を真犯人として起訴する。そこには、南部の住民に根強く残る北部への敵意を利用し自らの人気を取ろうという打算があった。。。

社会の善悪を問い続けたルロイ監督の作品の中で最も酷烈な一本かもしれない。女学生殺害の真相は最後まで明らかにならず、連鎖して起こるリンチ殺人が衝撃的かつ陰鬱な後味を残す。

オープニングから“ディキシー”や“ケンタッキーの我が家”など、ジョン・フォード監督がウットリと用いる南部の音楽がかかる。やがてそれは保守的な気分がもたらす排他性への皮肉であることが明らかになっていく。サミュエル・フラー監督がルロイ監督を先達の筆頭に挙げている事が腑に落ちる。

ただし本作の真意は南部を批判するものではなく、現代でも起こりうる魔女狩り的な集団ヒステリーの恐怖に警鐘を鳴らすもの。検事の私利私欲によるでっち上げ大衆操作に、売らんかなのメディアが乗っかり瞬く間に世間の空気を作り上げていく様は、去年のNHK党周辺や兵庫県知事選と全く同じ。90年近く前の本作での問題提起は現代日本にそのまま通用する。

終盤、闇夜に連れられて行く教師と走りゆく列車の脇で落下する郵便袋のシンクロカットが禍々しくも秀逸だった。

※ラナ・ターナーは本作で着用したタイトなセーターが話題になり“セーター・ガール”の愛称がついた。4年後に同監督「ジョニー・イーガー」(1941)で大ブレイクを果たす。
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