銀色のファクシミリ

Diner ダイナーの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

Diner ダイナー(2019年製作の映画)
3.3
『#ダイナー』(2019/日)
劇場にて。原作未読。徹底的に「普通」が描かれない、殺し屋専用食堂「ダイナー」での極彩色の狂騒の物語。孤独な少女カナコは、不運と安易な見通しのツケで「ダイナー」に売り飛ばされてしまう。先輩ウェイトレスが全滅したから補充された、カナコの運命やいかに。

作りこまれた美術と、大芝居で登場する殺し屋たちは、まるで美しい舞台劇のよう。ただあまりに「普通」を描かないがゆえに、美しい非日常の描写だけが続くと、それが作中の当たり前になり、当たり前の連続は緊張を弛緩させてしまう。

また主人公カナコの「いつ消されるのか」という切迫感が徐々に薄らいでいくので、緊張感も消えていく。派手な殺し屋たちにも暴力行使を躊躇わない異質の人という不気味さが薄い。そのような要素が重なり、中盤はダレ気味になってしまったのは残念なところ。

それでも終盤の決戦、そして雨中の最終決戦のビジュアルは最高! ガンアクションも、ソードアクションも蜷川実花監督的な見せ方というか、美しさ優先の描写は意外にもフレッシュ。「美の暴力」表現をもっと長く見たかったくらい。

主演の玉城ティナもまた「美の暴力」でした。序盤のだらしなく両腕を下げたままで身を固くするしかない、寄る辺ない立ち姿。終盤の腹を括った健気さを感じさせる凛々しさ。作中、一番メリハリが効いていたのは、この人かも。

そして特筆すべきは、殺し屋スキン役の窪田正孝。こんなんホレてまうやろな、危うさとクールと優しさを併せ持つ重要な役でした。主役の藤原達也は言うの及ばすの好演でしたけど、謎多き主人役なので人物の掘り下げがなかった分、後ろに回ってしまった感じ。終盤はさすがの独壇場でしたけど。

褒めるところもたくさんあり、惜しいところもあちこちある。観る人を選ぶ映画だと思います。ただ「美の暴力」とも云うべきビジュアルは間違いなく一見の価値あり。結論として、この作品中の言葉を借りれば「まったく、扱いづらい映画だ。」 感想オシマイ。
(2019年7月6日感想)