Yoshishun

青の帰り道のYoshishunのレビュー・感想・評価

青の帰り道(2018年製作の映画)
4.2
忘れられない、離れられない青春の片隅に。
あの頃体験した青春に思いを馳せて。



昨年、出演者の不祥事によりお蔵入り寸前にまでなった作品。該当のシーンは代役が立てられ、約2週間の撮影を経て、完成された。お蔵入りになることを必死に止めたというキャスト、スタッフの情熱が詰まった青春映画である。映画初主演となる真野恵里菜、今やスター俳優となった横浜流星といった旬の若手が集結、監督は『オーファーザー!』の藤井道人。

まず、タイトルからは想像もつかない程にシリアスで重たいストーリー。主人公のカナ、キリをはじめとした主人公グループの人生。ある者は憧れの都会へ赴き、ある者は貧相な田舎に残る。歌手志望、医大受験、写真家志望、家庭持ち、就活といった明確な夢や道がある者もいれば、ただ大きなことを成し遂げたいというあやふやな希望を持って生活する者もいる。共通するのは、皆それぞれ一貫した意志を持ち合わせ、人生を歩んでいることです。しかし現実はそう甘くない。若者たちの夢や希望は悉く打ち砕かれ、"死"さえも匂わせます。それは序盤で、若者の自殺者が過去最高であるというニュース、更には政権交代による国民の不安、そして未曾有の大震災からも間接的に描かれています。

わかりやすいほどに人生の転落が描かれているため、「現実的ではない」という批判も納得できます。ですが、このありきたりなストーリーを支えているのは、間違いなくキャストの演技力と云えます。夢と希望のあった高校生と、現実を目の当たりにし苦悩する大人。その演じ分けが素晴らしいと思いました。あんなにキラキラした眼差しをしていたのに、顔は窶れ酒に浸るのがリアルに描かれていてしんどい。

そして中盤に訪れる死をきっかけに、再び田舎に集う若者たち。青の帰り道、つまり青春を体験した場所への帰路。懐かしき場所へと帰って来た若者たちが贖罪を求め、途方もない結末を望む。

しかし、本作のラストは絶望を与えない。帰り道での若者たちの表情から見て、思いを馳せて歩き出す。死を乗り越えた先に見えるものとは……?

公開中止を必死に食い止めようとした製作陣の熱量が伝わる傑作群像劇。
音楽も情に刺さる作品でした。
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