タケオ

マイル22のタケオのレビュー・感想・評価

マイル22(2018年製作の映画)
3.5
 『ローン・サバイバー』(13年)『バーニング・オーシャン』(16年)『パトリオット・デイ』(16年)に続く、ピーター・バーグ監督&マーク・ウォールバーグの仲良しコンビ「Wバーグ」シリーズの第4弾。前3作は事実を元にした作品だったが、本作は「Wバーグ」シリーズ初となる完全なフィクションのため、ピーター・バーグの作家性が(良くも悪くも)全開となった、なんとも微笑ましい作品となっている。
 本作の主人公ジェームズ・シルバ(マーク・ウォールバーグ)は、CIAの極秘部隊"オーバーウォッチ"に所属する一流エージェント。シルバたちのチームに課された新たなミッションは、6ヶ月前に奪われたセシウムの所在情報と引き換えに、特殊部隊に在籍していた元警官のリー・ノア(イコ・ウワイス)を無事アメリカへと亡命させること。ノアを保護している大使館から空港までの距離は22マイル(約35km)。果たしてシルバたちは、次々と襲いかかる刺客たちからノアを守りきることができるのか——?
 記録映像や極秘資料のコラージュをナレーションとともに素早く写し出していく『JFK』(91年)っぽいオープニングを観て、「なるほど、さては任務に挑む主人公たちの姿を通して—アメリカの暗部—を炙り出していくタイプの作品なんだな」と思ったら、全然そんなことはなかったので少々面食らった。いや、確かにアメリカの暗部も全く描いていないというわけではないのだが、監督のピーター・バーグは別にそれを重点的に描き出そうとはしていない。本作が最も力を入れているのは、なんといっても迫力あるリアルな銃撃戦シーンだ。見せ場に次ぐ見せ場の連続は、見ていてとても楽しい。多くの批評家が指摘しているように、確かに本作の銃撃戦シーンはチャカチャカした演出のせいで何が何だかよくわからなくなって混乱する。が、個人的には逆にそれが好印象。予想を遥かに上回る苛烈な襲撃に晒される主人公たちの混乱を、そのまま一緒に体験しているかのような感覚を味わうことができる。
 また、ノアを演じたイコ・ウワイスの大立ち回りも素晴らしい。『ザ・レイド』シリーズ(11~14年)で見せたキレッキレの体術は本作でも健在で、彼が暴れる場面では完全に映画のトーンが変わってしまっている。映画としてはバランスを欠いている気もしなくはないが、それは同時にピーター・バーグから鑑賞者への豊富なサービス精神の表れでもある。つべこべ言わず、素直に受け取るのが吉というものだ。
 とにかく統一感のない作品である。しっちゃかめっちゃかすぎてとうとうテーマの焦点までボヤけてしまっているが、「Wバーグ」前3作にはなかったある種の「自由」を感じさせてくれるのもまた確かである。その「自由」は良くも悪くもではあるが、とにかく「自由」であることには違いない。散々やりたい放題やった挙句の後味の悪いラストも、「自由」を感じさせるがゆえにどこか清々しい。なんだかんだで、「Wバーグ」の新境地を提示してみせた佳作だといっても過言ではないだろう。
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