ゾンビから人間に戻った者が社会復帰するという話は、ゾンビもの、パンデミックものとして新しい切り口である上に、今現在の社会情勢とすごくリンクする内容になっている。(本国アイルランドでは2018年公開だが)
かつてゾンビだった回復者(キュアード)に対して世間は敵意と憎悪をむき出しにするが、連日報道されるコロナ感染者への差別の実態を見ていると、これが露悪的とは全然思えない。
かつてのゾンビ映画は、ゾンビが肉親でもない限りは問答無用で頭部を破壊していたが、ゾンビに「人間に戻る余地があるかもしれない」という設定を付与する事でより残酷な状況が生まれる。
まさにコロンブスの卵。
ラストでは「治るかもしれない」という可能性が、絶望から転じて微かな希望になっている。
一つの差別から新たな暴動が連鎖していくのも、ミネソタ州から派生した黒人差別反対デモとダブるが、暴動の首謀者であるコナーの顛末が曖昧なままなのがモヤっとする。(あんな事態を引き起こして出馬できるものか?)
あとはヒロインのアビーがジャーナリストである設定がほとんど活かされないのと、ゾンビと回復者が世間から差別される姿を描いておいて、終盤主人公のセナンとアビーが自己防衛のためとはいえゾンビを躊躇なく殺すのもちょっとどうかと思った。(ちょっとはそこに葛藤があっても良いのでは?)