ジャン黒糖

孤狼の血 LEVEL2のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

孤狼の血 LEVEL2(2021年製作の映画)
3.9
孤狼の血じゃけ~、何をしてもええんじゃ!!!!!ええのぅ!!!?

【物語】
広島仁正会五十子会初代会長が参加する「やっちゃれ会」に尾谷組の一ノ瀬が襲撃してから3年。
亡くなったマル暴・大上の遺志を継ぐ日岡による裏社会への取り仕切りの甲斐あって広島は抗争による死者も出ることなく、双方しのぎを得て生き残っていた。
ところが、五十子会初代会長の腹心であった上林の出所によって保たれていた秩序は徐々に崩れていく…。

【感想】
白石監督映画といえばやっぱり役者たちの演技合戦!
特にこの『孤狼の血』といったら悪い奴ら同士の広島弁による怒号の応酬!
「なんもかんもぶっ壊れりゃいいんじゃ!」
「おどれらりゃ仁義もクソもないんか!」
「口答えしょーんは全員ブタ箱叩き込んじゃる!ええのう!!!」
「物証もヘチマもあるかいぁ!」

『アウトレイジ』の「~だバカ野郎!」も霞むほど、この怒号が気持ちええったらありゃせんどぉ!おぉ?!
さすがは前作で「びっくりドッキリクリ◯リス」、『凪待ち』で「郁ちゃ~ん!」など、数々の強烈なフレーズを生み出す白石監督作品。笑

また、こうした広島弁で怒鳴りちらす役者陣もとにかくイキイキしている。
映画秘宝の監督インタビューによれば、コロナ禍の撮影ということもあり、他の仕事が中止、延期でスケジュールに空いてしまったことでキャスト陣もこの映画の撮影に集中して臨むことができたという。
(ちなみ、観に行った映画館ではもうパンフレットが売り切れていた!なにしちょるんだ!!!)

特に!
もうこれは絶賛するほかない、鈴木亮平さん演じる上林!!
同監督の『ひとよ』でも、目が離せない演技で引き込まれてしまったが、この『~LEVEL 2』はもう完全に上林が最初から最後まで恐怖で支配しちゃってたな~。

古きヤクザらしく、亡き初代会長の遺志を継ぐと口にこそするが、彼の真の目的は「大儀いんじゃ~!」というセリフに代表されるように、ビジネス≒しのぎを優先して盃をかわす二代目のやり方に反対し、彼は昭和の時代の血で血を争う時代に戻そうと動く。

まるで『るろうに剣心』の志々雄誠のような、『ダークナイト』のジョーカーのような、アベンジャーズのサノスのような、『シンゴジラ』のゴジラのような…
ただただ説明不要な圧倒的恐怖感で動乱の時代に引きずり込もうとする。
エンタメに振り切る回し役としては大正解の役どころ。

韓国バイオレンス映画が昨今、群抜いて素晴らしいけれどそれに対向してなのかな、
「もしも韓国映画の猟奇殺人犯が日本でヤクザをやっていたら」的な”もしも”映画として、「日本のエンタメを見せつけたる!」という気概を感じた。


一方の日岡も、前作で大変なインパクトを残した役所広司さん演じるガミさんこと、大上の亡きあとというハードルの高い役どころながら、見事な”孤狼”っぷりを演じられていたと思う。
特に彼の冷たい目線。前作ではあんなにひよっこだった日岡の面影はなく、3年経って立派なマル暴へと変貌していた。
あのひよっこだった日岡も…すっかりタバコ吸うのも痰を吐くのもサマになったんやね…(親目線)

本作はこの日本映画史に残るであろう悪役・上林と日岡という、それぞれが先代の遺志を継ぐ者として対立するという構造、それを演じる2人の演技合戦が観ていてまぁ単純にアガった。

あと、中村梅雀さん演じる瀬島。
すっかり”孤狼”となった日岡と相棒を組む、定年間近の人情味あふれる男。
彼のにじみ出る人柄の良さに、組織暴力の危険な現場に彼を巻き込まないで!死なないで~!と思っていたらまさかの展開…
ひゃ~恐ろしい…

前作からの続投である滝藤賢一さん演じる嵯峨、中村獅童さん演じる安芸新聞の高坂は言わずもがな最高じゃけぇ。
白石監督作品の常連である音尾琢真さんはもう…前作を観た後に本作観るともう笑うしかない!パールエンターテイメントて!笑

今回から登場した早乙女太一さん演じる花田、毎熊克哉さん演じる佐伯、出番こそ主要陣に比べれば少ないものの、それぞれ組長を支える信頼置ける組員としてしっかりインパクト残してた!
村上虹郎さん演じるチンタ!お前!お前…バカ野郎…涙(誉め言葉です)

寺島進さん、宇梶剛士さん、かたせ梨乃さんら、これまで任侠映画に出ることの多かった大御所たちは本作では、上述のとおり先代の遺志を継ぐ若手らのための引き立て役というか、、、役がワザとっぽく感じたのは自分だけかな…

あと、出番少ないながら西田尚美さん!!!
白石監督作品における西田尚美さんの使い方よ…『凪待ち』でどうなったか忘れたんか…そりゃ酷じゃけ…白石監督…涙(誉め言葉です)


ということで、もう役者陣による熱い熱い演技合戦と、まさに血で血を争う激化する抗争にそれだけでもう拍手喝采!!!!!

と言いたいところではあるのだけど…
個人的にどうしても気になったところが2点。

その1:”正義”とは何じゃ??
前作ではガミさんは警察にもかかわらず誰が見ても違法行為ばかり行う一見”悪”に見えたが、実は彼が暴力団から守っていた対象、そして彼が恐れていた対象が映画終盤に明らかになったことで、それら違法行為もガミさんなりに貫かれた正義感に基づく”必要悪”であったことがわかった。

本作では、そんなガミさん亡きあと、組同士の抗争による死者を出すことなく、一見すると保たれた秩序を守る日岡の活躍が描かれる。
ただ、ガミさんの遺志を日岡なりに解釈して受け継いでいるのかと思いきや堅気に組のスパイをやらせる、警察でありながらヤクザに直接手を下すなど、ガミさんが貫いていたポリシーそのものさえ壊してしまっていることに正直違和感。
特に、前者の堅気に組のスパイをやらせるところなんか、最初から「それだけはやっちゃダメよ」とこちら側がずっと思っていた不安が結局最悪の形で的中してしまううえに、日岡が守ろうとしていた正義も見えないため、この1点に関してはいくらエンタメに振り切って最高といえど解せない残念ポイントだった。

後者、日岡が直接ヤクザに手を下すのも、東映ヤクザ映画としての見せ場としてはGood。桃李くん最高にカッコいい。
これがきっかけで原作でいう『孤狼の血』の続編『凶犬の眼』に繋げたというおそらくの意図もわかる。
ただ、感情に負けて直接手を下すのは警察のやることじゃなかぁ!!

あと、警察本部側の、ピアノ講師殺人事件が遅々として捜査進まない隠ぺいされた理由についても中盤明らかになるけど、それもなんだか身内に閉じた安直な理由過ぎて、お前らにとっての”正義”とは何じゃ?と気になった。
こんなんしてもすぐにバレるって。


その2:エンタメに振り切りすぎたら無理あんじゃけぇのう!?
終盤のカーチェイスシーンは『ひとよ』に続き、エンタメに振り切った結果、演出上は派手な展開としてGoodだけど物語上の必然性としてはやや違和感あるんじゃないかな~と気になった。

今回、上林組と敵対する尾谷組は物語上、抗争するかしないかの緊張関係にある相手方のはずなのにあまり描かれないので役者たちのインパクトはそれなりにあるものの、若干物語上はモブ化してしまっており、それゆえ終盤のある人物とある人物のカーチェイスシーンもアガる!というよりはいやいやそっち行っちゃうんかい!と思ってしまった。
この場面、なんなら上林組の組員でさえモブ感あった。



とまぁ映画オリジナルストーリーとなった結果、前回のガミさんの遺志や五十子の遺志はどうなっちゃったの?と気になるところはあるものの、「大儀いんじゃ!!」というセリフのとおり、東映ヤクザ映画としてエンタメに振り切って強烈な悪役・上林という男を生み出した点は最高!!!!!

最後には日岡は『日本で一番悪い奴ら』における諸星的なというべきか、それなりの処遇を受けることになるけど、この結果が原作小説の2作目『凶犬の眼』に繋がるということなので、これは次回Level 3に期待じゃけぇのう~~!!
ジャン黒糖

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